世界の経済格差2019年版統計で明らかになる「富の移動」

23.01.2019

Photo: bangkoknews

 

 国際NGOのオックスファム(Oxfam)による世界の経済格差問題に関する2019年レポート(Public Good or Private Wealth:公共の利益か、個人の富か)が発表された。最新のレポートでは、世界の大富豪トップ26人が、世界人口のうち経済的貧困に当たる半数、約38億人の総資産と同額の富を所有している。2016年に最初に発表されたレポート以降、毎年経済格差は拡大している。

 

改善されない経済格差

 世界のわずか1%の超富裕層の資産は、残り99%の資産より多くなっている現実がある。世界で生み出された新たな富の80%以上は最も豊かな富裕層にいき、世界の貧しい半分にはわずか1%未満の富がわたった。2018年には低所得層の半数の約38億人の富が11%減少したのに対し、10億ドル以上の世界の億万長者は一年で資産を9000億ドル増やしている。この額を1日当たりに計算すると、20.5億ドルの増加である。

 

 2008年の金融危機からの10年間に、億万長者は2倍、これまで最大の2,208人に増えた。さらに、億万長者の数は1年(2017~2018年)で2日に1人と、これまでにない水準で増えている。一方で、1日一人1.90ドルの最低限の生活水準を維持できない「極度の貧困」の生活を余儀なくされている現状の改善は2013年以降鈍化している。

 

 現在の世界経済の仕組みでは資産を保有する一部の特権層に富が集中するようになっている。富裕層はより富を増やし、世界の低所得層の状況は悪化、経済格差は拡大する一方である。この状況に対し、オックスファムはいくつかの対策を提言している。レポートのタイトル通り、貧困・経済格差問題の解決には教育、医療、インフラなど各国の公共利益を優先する政策を導入することが重要としている。超富裕層が保有する約7.6兆ドルの租税回避の実態の見直し、大企業や富裕層に応分の税を払う仕組みの導入などがあげられている。

 

広がる格差の実態は「富の移動」

 最も裕福な1%があと0.5%だけ多くの税金を支払えば、教育を受けられずにいるすべての子供2億6200万人に教育を授け、330万人に医療を提供して命を救えるが、富裕層は自己の富を増やすことに精を出し、寄金の多くは富裕層と縁のない一般市民が負担する社会構造に変化の兆しはない。貧富の格差増大という表現の意味は「富の移動」である。また富裕層へ移動した富を使って、さらに移動を容易になり、税金逃れや国家さえもがそれを後押しする現実は、「不正な富の移動」であることが問題なのである。格差の増大といえば諦めて容認できたとしても、税金逃れや不正な蓄財となれば話は別である。

 

 一方、税制格差は一般市民の怒りを買い、「黄色いベスト運動」が起き、ポピュリスト勢力の増大は世界的な傾向で、富裕層を優遇する政府とグローバリストは例外なく厳しい批判にさらされることとなった。今後の世界情勢は格差増大の増大で、逆にポピュリストの勢力増大を招き政権の弱体化が多くの国で現実に起きている。1789年のフランス革命は市民革命であると同時に、「資本主義革命」であることを忘れてはならない。

 

 

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