新種コロナウイルス感染拡大の可能性

15.01.2020

Photo : pxhere.com

 

 昨年12月31日に中国内陸部、湖北省の武漢市で、魚・動物市場(ウェット・マーケット)の業者と買い物客合わせて59人が原因不明の肺炎に感染したと報告された。1月8日には感染者のうち41人が新種のコロナウイルスに感染したことが確認され、9日には1人が死亡、12日時点で41人のほかに疑いのある717人が観察対象となっている。近年アウトブレイクをみせた、エボラ、SARSや MERSなどのコロナウイルス感染症は数人のスーパー・スプレッダーによって感染拡大したとされている。今後、この新型のコロナウイルスがどの程度感染拡大するかが懸念される。

 

スーパー・スプレッダーとは
 スーパー・スプレッダーとは、感染期間中に通常の感染者より多くの人への二次感染を起こす者を指す。2002年~2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)や2013年のMERS(中東呼吸器症候群)、2014年~2015年の西アフリカにおけるエボラ出血熱は、数人のスーパー・スプレッダーによって感染が拡大したと報告されている。

 スーパー・スプレッダーは、腸チフス、結核、風疹、はしかなど他の感染症の大規模な感染の原因ともなっている。普通の感染者による二次・三次感染例は少なく多くの人への感染関与は低いとされているので、数人のスーパー・スプレッダーによって感染が拡大する現象があると考えられている。

 

SARS拡大の事例
 WHOによると世界38カ国に拡大したSARSは8,098人の感染者と774人の死亡者をだした。2002年に中国・広東省で発生したSARSは10週間後には中国以外の国で感染拡大したとされる。SARSは中国から香港、シンガポール、カナダ、ベトナムへと感染が拡大したが、数人のスーパー・スプレッダーが大きな原因となっている。

 SARS疫学調査の結果、米疾病管理センター(CDC)は、通常のSARS患者は0人から多くて3人を感染させるのに対し、スーパー・スプレッダーは10人以上の人に感染を広める強い感染力をもっているとした。

 

 香港で SARSを広めたのは3人のスーパー・スプレッダーとされている。最初の発症者(ペイシェント・ゼロ)の一人は、香港のプリンス・オブ・ウェールズ病院で治療中に125人にSARSを感染させ、香港での感染拡大の原因となった。もう一人は香港の団地(アモリー・ガーデン)で180人の二次感染を引き起こしている。

 3人目のスーパー・スプレッダーは、広東省の病院でSARS感染者の治療にあたっていた医師が親族の結婚式に出席するために香港に渡航、香港でメトロポール・ホテルに宿泊中に13人に二次感染を起こした。感染した宿泊客はカナダ、シンガポール、台湾、ベトナムなどの行き先でSARSを発生して感染が拡大した。

 香港からカナダに帰国した一人は発病、治療を受けていたトロントの病院で128人にSARSの3次感染を引き起こす。

 スーパー・スプレッダーによるスーパー・スプレッディング現象は感染者だけでなく、ウイルス感染価、感染経路やウイルスの病原性の強さの他に、環境(人口密度、病院内の体制、集団住宅の空調設備や下水設備など)、集団免疫の低下、誤診、個人の行動などの様々な要因が重なって発生している。

 今回の新種のコロナウイルスの感染源(コウモリの可能性が高い)は現時点で特定されていない。人から人に感染するかも不明である。武漢中央病院、中国CDC、復旦大学公共衛生学院その他の共同により、新種のコロナウイルスのゲノム配列が11日に公表され、情報公開は2002年のSARSアウトブレイクの際より早い。だが、新種のコロナウイルスが今後どの程度感染拡大するのかはまだ不明である。新種のコロナウイルスが突然変異で人から人へと感染するようになれば、SARSと同様に感染拡大する可能性も考えられる。

 

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