採算性をクリアした水素エネルギー製造コスト

03.01.2019

Photo: fool.com

 

水素経済や水素エネルギーという新技術へのアレルギーが強い日本では、採算性を根拠に実用化はあり得ないとする短絡的な記事が目立つ。しかしNIMS、東京大学、広島大学の共同研究チームが、太陽光発電と二次電池を組み合わせた水素製造システムの経済性を評価した結果、水素製造システムが世界規模で競争力のあるコストで水素を製造するレベルに到達し再生可能エネルギーを水素転換し貯蔵すれば、ベース電源とすることができることが明らかになった。(Kikuchi et al., Int. J. of Hydrogen Energy 44, 1451, 2019)。

 

すでに欧州は猛烈な勢いで脱炭素化政策を推進し、その一環として水素エネルギー化に進みだしており、米国もエネルギー政策の重要課題のひとつと位置づけている。日本でも多くの研究開発が活発に行われているが、政府のエネルギー政策には(ベース電源と炭素排出量の議論にとらわれた結果、)原子力が優先され、再生可能エネルギー推進は先進国中大幅に出遅れた。しかし今回の結果は国の主な動力源として再生可能エネルギー発電システムを加速するための重要な指針を提供するものと期待される。

 

再生可能エネルギー推進ができない

不安定な発電や低い年間稼働率など、再生可能発電を増やすための取り組みの障害となっている具体的な事例としては、2014年9月に再生可能エネルギーの供給を停止している日本の電力会社、2018年10月に太陽光発電の出力電力抑制を管理する九州電力などが挙げられる。これらは全て再生可能エネルギーを貯蔵しないための必然的な結果で、そのため世界は今、再生可能エネルギーを貯蔵してベース電源とする方向に動いている。具体的に再生可能エネルギーを貯蔵するには、水分解で水素を生成し、生成された水素を貯蔵および供給するのが最も基本的なアプローチである。

 

しかし蓄電技術としてのLi イオンバッテリーやレドックスフローなどの充電式電池や電力-ガス変換(P2G)システムのほとんどは、運用に費用がかかり、国内の再生可能エネルギー比率を高める障害となっている。

 

バッテリーと水素製造の最適化でコストは下がる

共同研究チームは、生成された太陽光発電の量に関連して、バッテリーの充電/放電の量と電気分解水素生産の量を調整することができる統合システムを設計した。その後、チームはシステムの経済的実現可能性を評価した結果、将来の技術の進歩を考慮しながら、二次電池と電解槽の容量など要因の分析により、システムが低コストで水素を製造するのに必要な技術レベルを特定した。

 

例えば、放電が低速だが経済的に製造できる充電式電池は、2030年頃までに利用可能になると予想されている。これらの電池の統合により、世界で競争力のあるコスト(1立方メートルあたり17から27円)で水素を製造できるようになることが明らかになった。

 

将来の研究で、研究チームは提案されたシステムに必要なコンポーネント開発目標値を設定する予定である。原子力推進派が再生可能エネルギーをベース電源として不適としてきた時代は完全に過去のものとなった。日本のエネルギー基本政策を見直すべきフェーズに入っていることを政府も認識すべきだ。水素エネルギー社会は確実にやってくる。

 

 

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