次世代パワーエレクトロニクスの新材料ScAlN

22.01.2019

Photo: iaf.fraunhofer.de

 

エレクトロニクス市場の成長は、産業の自動化とデジタル化の普及にかかっている。そのためには電子回路がより高いエネルギー効率で電力消費量を下げることが不可欠の条件である。欧州最大の応用物理研究所であるフラウンホーファー応用固体物理研究所の研究チームは、窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)がこの目的に最適の次世代パワーエレクトロニクス材料であると考えて開発研究に取り組んでいる。

 

今日まで、シリコンはエレクトロニクス産業を支配する半導体材料であった。それを支えてきたのは材料の結晶構造の完全性と使いやすいバンドギャップで電荷キドーピングによってキャリア濃度および移動度や絶縁性制御できることである。しかし、シリコンエレクトロニクスは微細化によってその物理的限界に達している。特に要求される電力密度に関して、シリコンはパワーエレクトロニクス材料には不十分である。

 

このシリコンデバイスの限界は、パワーエレクトロニクス材料として窒化ガリウム(GaN)を使用することで克服された。GaNは、高電圧、高温および高速スイッチング周波数でのデバイス性能がシリコンを凌ぐ。これは、非常に高いエネルギー効率と密接に関係しており、エネルギー消費が大きいアプリケーションでは、これは大幅な省エネルギーが実現する。

 

研究チームは、長年にわたり電子部品およびシステム用の半導体材料としてGaNを研究してきた。研究チームは、次世代のパワーエレクトロニクス材料のエネルギー効率と耐久性さらに高めるために、新規の材料スカンジウムアルミニウム窒化物(ScAlN)の研究開発を行っている。下図は圧電素子としてシリコン基板上に傾斜成長したScAlN薄膜のX線回折パターン。

 

Credit: researchgate

 

ScAlNは、マイクロエレクトロニクス分野でほとんど研究されていない圧電半導体材料である。研究チームは、GaN層上に格子整合したScAlNを成長させたヘテロ構造を使用して、高い電流容量を持つトランジスタを目指している。

 

ScAlNやGaNのようなワイドバンドギャップ材料をベースとしたヘテロ接合で、非常に高い耐電圧と電流密度を持つトランジスタが可能になる。GaNとScAlN材料を組み合わせることで、デバイスの最大可能出力電力を2倍にしながら同時にエネルギー需要を大幅に削減される。

 

 

最大の課題は、ScAlNの結晶成長である。この材料の新規性が高いためまだ成長レシピも経験もないため、成長条件の最適化に相当な時間が必要となるが、理想的なバンドギャップから高いデバイス能力が予想されており、次世代パワーエレクトロニクスを支える新規材料となることが期待されている。スカンジウムは希土類元素でコバルトと同程度の存在比なので原料確保に問題はない。