金・銀を再び法定通貨とする動き

2021/4/5

 

 1787年に成立した米国憲法第1条第10節では金・銀金貨を法定通貨として使うことを認めている。しかし、現在の連邦法(1986年内国歳入法)により歳入庁は金と銀を有効な通貨ではなく資本資産としてみなしている。


 米連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和の金融政策への不信感、金利の長期に渡る継続的な低下によるマネーサプライの増加でドルの価値、購買力の低下、財政赤字の歯止めがからない拡大など、米国国外でドルに対する信用が低下している。


 ドルの通貨価値、信用の低下を背景に州レベルで金・銀金貨を法定通貨とする州法改正が行われてきた。2011年にユタ州が、金・銀金貨を州法で法定通貨とした。これは、1933年にルーズヴェルト大統領が国民による金の所有を禁止して以来、始めてのことであった。その後、金と銀を法定通貨とする州が増え、今では12州にまで増えた。
 
 連邦レベルでも今年に入って金と銀を法定通貨にする動きが始まった。3月30日に米国下院議員のアレックス・ムーニー氏(共和党、ウェストバージニア州)は、2019年に提出した金融金属税中立法(Monetary Metals Tax Neutrality Act: HR 2284)を再び下院で提出したのである。法案によると、現在
国歳入庁は金・銀金貨を「収集品」と分類、資本資産とみなしているため、売買の際に課税対象としている。特に地金の場合、売却後に最大で28%のキャピタルゲイン税が課せられる可能性がある。

 

 提案された金融金属税中立法は課税を撤廃することで、金と銀を資本資産から法定通貨に移行するものである。法案は (1) 造幣局が発行した金、銀、プラチナ及びパラジウム金貨の発行日に関係なく、売買や交換の際にキャピタルゲイン・ロスを課税の対象とみなさないこと。(2) 形状ではなく金属含有量に基づいて評価されている、精製された金または銀の地金、コイン、延べ棒、ラウンド、またはインゴットなど売買の際に発生するキャピタルゲイン・ロスを課税の対象とみなさないこと。

 

 建国から今日まで増刷された米ドル貨幣(マネーサプライM1)の約40%が2020年の一年間で増刷された。ドルの購買力でみると、1913年以来96%失ったことになる。明らかにドルのお金としての価値、購買力の低下で、人々が金・銀や仮想通貨へシフトする動きは加速していくことになる。

       Source: Board of Governors of the Federal Reserve System

 

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