OECDのデジタル課税方針のアウトライン

26.01.2019

Photo: coin68.com

 

 OECDは、デジタル化のために各国が直面する税務上の課題およびこれらの課題に対処するための潜在的な選択肢に関するG20財務大臣向けの中間報告の概要を発表した。OECDはG20閣僚を通じて各国に働きかけているが、欧州議会で否決された情報保護法案の見直しを巡って足並みが揃わないドイツとフランスの対立でEUの亀裂を広げることとなった。

 

 ダボス会議では、グーグル副社長のルース・ポラトが意外にもOECDを支持し、フランス財務相は、EUのデジタル巨大企業に対するデジタル税の採用を擁護したが、EUは一枚岩ではなかった。アイルランド、デンマーク、およびスウェーデンはEUによるデジタル課税に反対し、EUの中で影響力の大きいドイツは、輸出産業の要である自動車産業への米国の報復を恐れて、反対派にまわったからである。 

 

 OECD / G20ベースのデジタル課税行動計画では、著しい経済的プレゼンスになったデジタル取引の新しい税務関連概念を国際税法に追加することが不可欠であるとし、「ある種のデジタル取引」に対する源泉徴収税と、デジタル均等化課税を提案し、EU各国に提案した。現時点ではデジタル課税に関連して各国が検討または実施している措置についてもコメントが求められている。 

 

 OECDは、近年のグローバルなビジネスモデルの構造変化により生じた多国籍企業の活動実態と各国の税制や国際課税ルールとの間のずれを利用することで、多国籍企業がその課税所得を人為的に操作し、課税逃れを行っている「税源侵食と利益移転」問題(BEPS)(注1)に対処するため、平成24年よりBEPSプロジェクトを立ち上げており、デジタル課税も税源侵食と利益移転の一環と位置付けている。 

 

(注1)BEPS (Base Erosion and Profit Shifting、税源浸食と利益移転)とは、現地税制や国際課税原則の観点からは合法ではあるが、法人税収を著しく減少させる国際的税務プランニングを指す。

 

OECD税源侵食と利益移転行動計画は以下の項目から構成されており、デジタル課税は行動計画1のデジタル経済の課税に関わる最重要課題となる。

 

行動計画1:電子経済の課税上の課題への対処

行動計画2:ハイブリッド・ミスマッチ取極めの効果の無効化

行動計画3:外国子会社合算税制の強化

行動計画4:利子控除制限ルール

行動計画5:有害税制への対抗

行動計画6:租税条約の濫用防止

行動計画7:恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止

行動計画8‐10:移転価格税制と価値創造の一致

行動計画11:BEPSの規模・経済的効果の分析方法の策定

行動計画12:義務的開示制度

行動計画13:多国籍企業の企業情報の文書化

行動計画14:相互協議の効果的実施

行動計画15:多数国間協定の策定

 

 デジタル化時代は新しいビジネスモデルと価値創造をもたらしたが、同時に①個人情報保護および、②著しい経済活動(デジタル商取引)の両方の側面で、それぞれ規制と課税の必要性が生じたというのが根拠になっている。EUの想定指定する対処法というのは、それぞれ情報保護法案とデジタル課税法案で、OECDの行動計画を先行実施するかのようである。

 

 しかし現実には欧州議会で否決された情報保護法案の見直しを巡って、EUはフランスとドイツを中心とした国々に分裂し、デジタル課税でもドイツは法案に反対する立場をとって、EUの亀裂を生む結果となった。結局、デジタル課税はGAFA税と呼ばれるほどに、米国企業そのもので米国益と利益相反することになる。当然、施行されればGAFAは痛手を受けるから、米国は制裁に打って出る流れだが、自動車産業への課税をすれば、ドイツにとって損失が大きく容認できない。EUをモデルとしたデジタル課税は前途多難だが、少なくともGoogleがOECDを擁護したことで、前進しつつあるといえるかもしれない。

 

 なおOECDのいうデジタル経済はGAFAだけではなく、仮想通貨やブロックチェーンも含まれる。OECDは2020年までに行動計画のG20承認を目指している。OECDの思惑に透けて見えるフランスと米国と利益を共有するドイツとの亀裂は大きくなる一方だ。

 

 

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