東芝、日立の英原発撤退で風力に好機

25.01.2019

Photo: politico.eu

 

 日本の原子力産業を支えてきた東芝と日立は、英国の原子力発電プロジェクトから撤退したため、英国はエネルギー政策の見直しを余儀なくされた。原子力プロジェクトを中止しても、太陽光と風力で2030年までの炭素排出目標を達成することは可能であるにもかかわらず、英国政府は天然ガス火力発電所優遇する政策をとっている。

 

英国の原子力発電計画の崩壊

 英国政府はこれまでウェールズとカンブリアの日立と東芝の計画を含む6箇所の原子力発電所建設を推進してきたが、膨大な政府のインセンティブにもかかわらず、ほとんどの民間の原子力建設は暗礁に乗り上げている。進行中の2つのプロジェクトは、フランスのEDFと中国のCGNによるジョイントベンチャーで、20年以上に渡ってヒンクリーCを建設し、新たにブラッドウェルBを計画している。しかしドイツは福島事故以後、脱原発路線を打ち出し、米国とフランスでは老朽化した原子炉を更新できない状態が続いている。フランスは原子力発電比率を見直すことになった。

 

差別化される政府補助

 2018年には、英国の電力の19%が原子力で発電されていたが新規原子炉の建設ができないため、2030年までに10%に低下すると予測されている。一方、再生可能エネルギーの発電比率は着実に増加して、2018年に30%に達し、2020年には35%に達する。つまり太陽と風力発電は容易に原子力を置き換えることが可能なのに、陸上風力と太陽光に対する補助金がなく、洋上風力に限られている。

 

 洋上風力発電では現在、発電量の約7%を供給しているものの、再生可能エネルギーへの転換が軌道に乗ったわけではない。より多くの再生可能エネルギー比率が達成できないのは、財務省がエネルギー補助金を制限している、すなわち再生可能エネルギーへの転換に積極的でないためである。電力価格が洋上風力発電所の建設コストの低下で、3年で1/2以上になったにもかかわらず、天然ガス火力発電所のインセンティブの約1/2に制限されている。

 

 政府が再生可能エネルギーをここまでして拒むのは何故か。英国政府の言い分は日本の場合と全く同じで、再生可能エネルギーは安定な電力(ベース電源)ではないということである。再生可能エネルギーの不安定性は、蓄電技術やスマートグリッドで夜間により多くの電力を使用することで解決する。またその先には水分解で水素を製造し、太陽エネルギーを水素エネルギーに変換する時代が来る。再生可能エネルギーの不安定性がなくなりベース電源になる日が来る。

 

英国の原発計画の崩壊で風力に好機

 この問題の本質は政治的で、英国政府の事業エネルギー・産業戦略省は再生可能エネルギーを促進したいと考えているが、国策でなく「市場」に任せたい財務省によって抑制されていることのようだ。英国政府は①原子力発電所の建設、②天然ガス火力、そして③シェールガスの採掘に大きなインセンティブを与えている。しかし現実は逆で、これらの進展は遅く、陸上の風力、太陽および洋上の風力は差別されている。

 

 少なくとも英国の原子力発電計画の崩壊は政策の見直しの機会であり、差別されてきた再生可能エネルギーにとっては好機となることは間違いない。英国の事情はそのまま日本にも当てはまる。原子力を輸出産業の代表としてきた政府路線は、三菱のトルコ事業撤退、東芝、日立の英国事業撤退で、変更を余儀なくされている。日立会長の言うように「市場」に任せることは、「儲からない事業は撤退する」しかない。原子力から再生可能エネルギーへの転換は技術の世代交代時にあらわれるジレンマ(注1)といえる。政策の見直しに残された時間はわずかである。

 

(注1)The Innovator’s Dilemma, Clayton Christensen

 

 福島第一以後、再稼働中の原発は8基で50基を越える最盛期の2割にも満たない。おかげで火力比率が先進国中で際立つ85%という状態だが、新規原子炉が不可能な上に海外事業から撤退、となれば沈みゆく船に残るかどうかの瀬戸際なのである。そのことを一番よくわかっているのは「市場」なのではないだろうか。ちなみに英国を始め、北海の洋上風力発電事業が活発化しつつあるにも関わらず、国内市場の進展が遅いとして日立は風力からも撤退した。

 

 

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