英国の風力発電コストが原子力を下回る

12.09.2017

Photo: businessinsider

 

 再生可能エネルギーによる電力コストが原子力を下回ることはないというのが原発推進派の根拠だった。英国のヨークシャー州に建設が予定されている新規風力発電所の入札でビジネス・エネルギー・産業戦略省は沖合風力発電のコストがヒンクリー・ポイント原発を初めて下回ったと発表した。

 

 英国は立地条件が適しているとして、2017年度に将来性の高い新規風力発電整備計画に210億ポンドを投入した。英国の風力発電容量はすでに5.5GWに達しているが、この拡張で2020年までに10GWの再生可能エネルギー電力を確保する。

 

 360万家庭の需要を満たす新規計画の電力は2021年度までは1MWあたり74.75ポンドで、2022年度以降は57.50ポンドになる見込みで、ヒンクリー・ポイントCの原発電力コスト92.50ポンドを下回る。ヒンクリー・ポイントでEDFが建設を担当するはフランスのアレヴァ社の欧州型原子炉(EPR)が建設中だが、フランス同様、建設コスト高騰の煽りで建設が大幅に遅れている。

 

 

発電コストで原子力を抜いた風力

 風力発電コストが天然ガス火力や原子力を下回ったことで、原子力発電の比較優位性が崩れ去ったことになる。原子力産業協会は電源の多様性が必要で原発の存在理由が消えたわけではないとしているが、エネルギーミックスの議論が活発化することは避けられない。

 

 ヒンクリー・ポイント原子力発電コストはインフレ率を除外すれば35年間一定であった。原発推進派にとっては発電コストとその安定性がアピールポイントだったが、米国同様に新規原発建設のコスと高騰と工期遅れで未だに完成の見通しが立っていないことに加えて、最大のセールスポイントであった発電コストの優位性を失うこととなった。

 

 もちろん再生可能エネルギーが全て採算性が良いわけではない。再生可能エネルギーでは立地条件に即した自然エネルギーの選択と設備投資の集中が不可欠である。例えば波の高い北海に面した英国でさえ潮流発電と波力発電のコストは割高となる。それでもヒンクリー・ポイントの結果が出せない原子力に対して、懐疑的な見方が強まり、コスト面で優位に立った風力発電への期待は高まった。

 

 

Credit: UK government

 

 

 ただし英国の2011年度発電比率は天然ガスが40.7%、石炭29.1%、原子力17.7%、風力4.5%である(UK Energy in Brief 2012)。原子力を除けば日本のように極端に火力依存が大きいので、風力発電を拡張し続けても現実的には再生可能エネルギーの比率を過半数にすることは容易ではない。結局、再生可能エネルギー主体のエネルギーミックスは地味な積み重ねを手広くやる多様性とその国に適合するように重点化という一見すれば相反する体制を長期に渡って継続することで実現するしかないのだろう。

 

 

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