ターンキーになる英国原子炉

06.11.2015

Photo: Gulf Digital News


英国のキャメロン政権は国益と密接な関係にあるはずの原子炉建設を中国に一括して任せることに合意した。習近平の訪英で決まったトップセールスの一環だが、英国は独力で独自の原子炉を開発して来た米国、ロシア、フランスと並ぶ原子力先進国であったはずだ。その英国が初めて原子炉を導入する発展途上国のようにターンキー方式(原子炉の中身に立ちらないブラックボックス運転)で原子炉を稼働させることになる。


英国の原子力科学技術は歴史が古く数値解析で原爆の威力を示したことで、マンハッタン計画が現実化したことや、原爆の完成後に同盟国でありながら米国に技術情報開示を拒まれ、マンハッタン計画に関わったウイリアム・ペニーのもとで独自に原爆を開発したことなどからわかるように、確固たる独立精神は落日とはいえかつての大英帝国の誇りを失っていなかったことをあらわしている。


実際に1950年代に政府が民生原子力計画を推進しコールダーホールにおいて世界初の原子力発電所が運転された。また最初の商用原子炉となるマグノックス炉(英国型原子炉)(注1)が運転を開始したのも英国であった。


(注1)英国にあるマグノックス炉は26基。2014年までに全て廃炉になる予定。後継機がガス炉(AGR)で14基が建設され稼働中。AGR後継機のPWR(加圧水炉)は建設コストが民営化で財政を圧迫した。



英国の中国接近はこれより先、中国の主導のAIIBに西欧諸国でいち早く参加を表明したことで始まっていた。今回の原子炉建設の合意は英国における原子力産業の財政難という背景がある。


英国の原子力産業がピークに達したのは第2次イラン・イラク戦争で原油価格が高騰した時で、このとき政府は経済性の高いPWR(加圧水型原子炉)10基の導入を決めた。以降、電力産業の民営化で原子力による電力事業の採算化を目指したが、その後英国のガス生産がピークを迎えガス・電力市場の自由競争が激化した。一方で過去のウインズケールの放射能汚染事故への批判やや再生可能エネルギーへの転換の機運が高まったため、政府は2003年に原子炉建設に終止符を打ち、セラフイールドなど老朽化した原子炉の廃炉計画をまとめた。


しかしその後原子炉への依存を捨てきれず、老朽化原子炉を置き換えるために2008年に新規原子炉の建設予定地8箇所を決定した。福島第一の事故後もしドイツのように脱原発路線はとらなかったのである。むしろ地震対策など安全基準を高めて原子炉を建設しようとしていた(英国原子力産業協会報告書


英国の原子力産業の抱える問題は、英国独自の原子炉設計を望んでいながら設計に国際標準化を取りれたため建設と維持費用が高騰し、民営化された電力事業の中にあっては建設コストを捻出することが困難になった点に要約される


紆余曲折の後、現在、3つの事業者が国内5カ所で1600kWの発電所を建設する準備を進めている。今回の中国原子炉導入というのはどのような影響を及ぼすのだろうか。実は今回の合意以前から中国との関係は始まっていた。英国はサマセット州ヒンクリーポイントにフランス電力の合同プロジェクトで2基の欧州型(EPR)と呼ばれる新鋭原子炉(下の写真)建設を予定していた。しかし民営化したフランス電力(EDF)は中国広核集団(CGN)と中国核工業集団(CNNC)が40%出資する中国の投資に支えられた会社。EPR建設費は245億ポンド(4.2兆円)に高騰したほか、技術的な問題を抱えるいわくつきの新鋭原子炉(注2)である。


 

Photo: BBC News

 

(注2)建設コストの高騰でフランスのフラマンビルにあるEPRの建設(上の写真)が遅れている。安全保障のため複雑な構造となり、圧力容器に欠陥がみつかるなどトラブルに見舞われたこと、建設コストが3倍に高騰したこと、担当メーカー、アレヴァ社の業績不振などから建設計画が大幅に遅れ深刻な問題となっていた。

 

20151030日、習近平訪英の最中にフランス電力はこのヒンクリーポイント原子炉建設を中国国営企業(CGN)と共同で建設することで合意した。これより先の22日に中国CGNが英国の3原発建設事業に投資することが決まった。ここで注目すべき点はそのなかのひとつブラッドウエルには中国型原子炉(HPR1000)を導入することになったこと。つまり原発事業に「投資しながら自国の原発を売り込む」ことになったのである。

 

 

ヒンクリーポイントEPR建設はに60億ポンド(11千億円)の投資が決まった。この原子炉はアレヴァ社が威信をかけて欧州の次世代標準となるべく設計した先進技術の塊のようなものである。フランス電力の株式の過半数を持つCGNにとっては、この機会により地震対策など安全保障面で中国型原子炉の改良に役立てられる。地震の多い中国内陸部での原発建設に弾みがかかることは間違いない。