全米に展開する老舗の電気店といえばRadio Shackだった。どんな田舎町にも車で行ける距離に店があり、乾電池からオーデイオ、TV、PCまでなんでも揃う便利さが受けて、PCオタクから家庭の主婦まで幅広い顧客層に愛されていた。店のつくりも質素なたたずまいで電気製品が並ぶ、いかにも安値で頑張っています、的な雰囲気に好感を持ったものだった。
創業はマサチューセッツ州のボストンで創始者は最初、アマチュア無線の機器、部品を販売する会社としてスタートした。Radio Shackという会社の名前もアマチュア無線家がこもる無線機がある自宅の一室を指す言葉である。本社はテキサス州フォートワースにあり、全米5,000店の規模はMr. DonutsやDunkin Donutsと同じ規模で、くまなく全米をカバーする規模の店舗数である。
Radio Shackに行けば電気関係は事足りた
RadioshackはPCをはじめ周辺機器に安値の自社ブランドを展開し、PCが高値の花であった頃には、IBM機を購入できない階層にとってはまさに救いの神であった。太陽電池パネルの配線やアマチュア無線のアンテナ工事、セキュリテイシステム、ガレージドアの無線スイッチ、芝生の自動水やりシステムなどアメリカ人の夫が活躍するDIY作業において、途中で部品を手に入れる必要になる。その時には車を飛ばせてRadio Shackにすっ飛んで行く。もちろん大手のスーパーにも乾電池くらいはおいてあるのだが、ここの店員は電気に詳しい頼りになる存在であった。
専門知識を持つ店員たちを雇用するためもあって、Radio Shackはたびたび経営の危機を迎える。日本の家電量販店と同じである。安値で勝負するのはきびしい。街によっては営業成績が悪いところもあるが、その場合には営業成績改善の特別プログラムがあり、日本の人気ラーメン店同様に「雇われ店長」にはきびしい試練が待っていた。経営コンサルタントが提示する処方箋は対処両方であって長期的な動向を見据えたものでないので、その都度危機は脱しても大きな流れ、PCやオーデイオ機器の終焉に代表されるデジタル化とネット販売には打つ手が無かった。
ネット販売で人の流れが途絶えた
ネット販売が中心になると対人販売に固執して5,000店舗を維持するのは厳しくなる。この問題は日本の電気量販店でも同じで、大型店舗を競って開店しても顧客は最安価格を知っているから、店頭でさわって機種を確認し購入は家でネットとなる。いまでも古い世代は電気関係の買い物が必要になると、車のキーを探すが若い世代はPCに向かう。専門知識も店頭の店員にきいて育った世代は破綻などあり得ない、と感じていたはずだ。店内は無造作に箱が積み上げられた秋葉原感覚だったが気がつけば、その秋葉原もかつての電気街とは様変わりが激しい。
2006年には売り上げの低い500店舗を閉鎖し、従業員の1/5を解雇して改善に努めたが、立ち直ることはできなかった。2012年には株価が危険な水域に入りムーデイーズ格付けで印籠を渡されていたが、ついに破産法の適用申請を行ない長い歴史が閉じた。米国の街で目立つPC専門店としてPC DEPOTがある。店のつくりはRadio Shackに共通する質素なものだがPC時代の終焉に伴い風前の灯火である。
ネットで倒され買収されるRadio Shack
大手携帯事業者スプリントがRadio Shackの不動産買収の提案を行なっている。一方でネット販売で全米2位の家電量販店であったRadio Shackを破綻に追い込むことになったAmazonも実ビジネスの拠点とするため、買収に興味を持っているらしい。ここでスプリントに目を向けてみよう。スプリントは2013年7月にソフトバンクグループとなっている。Amazonにしろスプリントにしろ、ネットビジネスの「勝ち組」で、実ビジネスがネットに喰われた図式そのものである。
明日は我が身の実ビジネス
家電量販店にて目撃した事例。店員に長々と説明させ実際にさわって感触を確かめた若いカップル。女性はその場で購入したそうだったが、男性がスマホでチェックしすかさずささやいた。Amazonの値段の方が安いと。ほとんどの人が最低価格をチェックしてから来店するかご丁寧にスマホ画面を見せながら価格交渉に入る。ネット通販で失うものがあるはずなのだが、気がついた時には遅い。実ビジネスが滅びているかも知れないのだ。
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