癌発症とマイコプラズマ感染の関係

05.12.2018

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メリーランド大学医学部(UMSOM)のヒトウイルス研究所(Institute of Human Virology、IHV)は、マイコプラズマに感染した細胞の蛋白質DnaKがDNA損傷に応答し修復する能力を妨害する癌発症の起源と関係することを発見した(Zella et al., PNAS online Oct. 29, 2018)。

 

マイコプラズマDnaK DNA配列と癌発症との関係性がこれまで不明であった理由は、DnaKの損傷効果が早期に行われ、一旦癌細胞が形成されるとその後の進行には関連しないためである。今回の研究は細菌感染がこれまで考えられていたよりも遥かに多くの癌発症に寄与する可能性があることを示唆している。

 

現在、約20%の癌が感染に起因すると考えられており、ほとんどがウイルスによるものである。マイコプラズマは、特にHIV感染者に癌と関連した細菌の一種であり、細菌感染がどのようにして癌につながる一連の事象を引き起こすかを説明する鍵となる。この研究結果は細菌感染が特定の抗癌剤を妨害するメカニズムも説明する。

 

研究チームは、リンパ腫の発症に対するマイコプラズマ感染の影響を分析するモデルとして免疫不全マウスを利用した。マイコプラズマに感染した免疫不全マウスと比較して、無感染の免疫不全マウスがリンパ腫を発症する時間を比較した。マウスにHIV患者からマイコプラズマの株を感染させ、マイコプラズマ感染が、感染していない免疫不全マウスよりも早期にマウスにリンパ腫を発症させ、細菌DNAを有することを発見した。しかし癌細胞に微量の細菌DNAしか見つからなかったことから、この感染が癌発症にいたるまで存在し続ける必要はないことが示唆された。

 

 

Credit: PNAS

 

DnaKは本来、他の蛋白質を損傷から保護したり、折り畳みを助ける蛋白質であるが、DNA修復やp53などの抗癌活性に関与する重要な細胞蛋白質の活性を低下させるため、マイコプラズマに感染した細胞は損傷したDNAを適切に修復することができず、癌発症の危険性がある。

 

マイコプラズマ感染は、感染細胞におけるDNA損傷および腫瘍形成の蓄積につながるだけでなく、感染した隣接細胞から放出されたDnaKを取り込んだ非感染細胞の癌誘発を引き起こす。この研究はまた、p53を減少させることによって、DnaKが抗癌剤の有効性を低下させることも実証している。

 

多くの細菌のDnaKのアミノ酸配列を分析し、癌に関連する細菌由来のDnaK蛋白質は、癌と関連しない細菌とは異なるDNA配列であった。多くの癌関連細菌に共通する蛋白質によって媒介されるメカニズムが、感染と一部の癌発症の直接的な関係を裏付けるものと考えられている。