ファーウエイリスクを米国が欧州に警告

06.02.2019

Photo: davidicke.com

 

 欧州各国は高速接続と膨大なデータ容量でIoTインフラに不可欠な5Gネットワーク整備を加速している。米国は5Gモバイルネットワーク構築を技術支援している中国の通信大手ファーウエイがセキュリティ上のリスクが欧州全土に広がる恐れがあるとして採用しないよう警告した。

 

 米国務省は技術とコストで優位に立つファーウエイ機器で5Gネットワークを構築すると、情報漏えいのリスクがあるとしている。米国の懸念を伝えるためスペイン、EU当局、ベルギー、フランス、ドイツ当局に働きかけていく。中国政府の影響力が強いファーウエイやZTEが国家安全保障上のリスクが大きいと考えられている。

 

 ファーウエイ機器が知的財産権保護、プライバシーと人権の侵害に関して問題があるとした危惧は最近のICチップに盗聴デバイスが仕込まれていたこを受けてであるが、12月、欧州委員会のアンシップ副大統領は、ファーウエイとZTEが2017年の中国のサイバーセキュリティ法の下で、中国の諜報機関と協力することを要求されている事実を受けて、安全保障上の脅威を危惧している。 

 

 アンシップ副大統領はEU加盟国国家の安全保障を加盟国が求める場合、執行機関である欧州委員会が調整役となる用意があることを明らかにした。一方、ファーウエイは自社の機器がスパイ活動に使用される可能性を強く否定している。 

 

技術とコストで優位に立つファーウエイ

 しかしファーウエイは5G機器の品質の点でスウェーデンのエリクソン社よりも6ヶ月から1年早くノキアはさらに遅れているとされ、欧州通信会社はファーウエイの5G機器使用が禁止された場合、欧州は中国およびアメリカより運用が2年遅れを取るとして、ファーウエイ除外に懸念を表明しているが、技術の進度だけではなく中国お得意のコストでも優位に立つとしたら通信会社はためらいなく選択するであろう。米国はファーウエイ除外は商業的利益ではなく安全保障によるとしているが、ファーウエイ機器の禁止でエリクソン、ノキア、韓国のサムソンなど米国企業以外の恩恵も強調した。

 

困難なスパイ容疑の立証

 欧州委員会は、ファーウエイリスクに対処するEUの規制強化はないとしている(AP)。というのもすでに第三国とのEU協定の下で、締約国は安全保障上の利益を保護する措置が可能であり、加盟国は、軍用電子機器や機密情報を含む、または機密情報を含むセキュリティ関連の購入品について、第三国からの経済運営者との取引を阻止することができる。

 

 ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、ファーウェイの機器使用についてドイツで激論があることを認めた。ドイツはこれまでファーウエイが自社の機器を諜報活動に使用したという証拠は見当たらなかったとしているが、スパイチップは巧妙に組み込まれているので、見つけ出して情報漏えい現場を特定することは極めて難しい。確固たる証拠が得られるまで待つとしたら、すでに5Gネットワークが構築された後になり、リスクに気づいたときは後の祭りとなる。

 

 

Credit: rcrwireless.com

 

 上手に4Gと5Gのアンテナの外観を比較した。おなじみの4Gアンテナは誰でも基地局あるいは建物屋上に設置してあるのを見たことがあるだろう。5Gのアンテナはアクテイブアンテナで右端のフェーズドアレイは送受信素子がアレイに配置されたもので、イージス艦に使われているロッキード・マーチン社製SPY-1レーダーと同様の機能を持っている。5G電波は直進性が高いが吸収されて減衰するため、多くの素子を集中させる必要があるからだが、その技術を持つ企業は限られる。

 

5Gは社会インフラ

 IoTを含めれば5Gネットワークは単なる携帯キャリアの事業を超えた社会インフラだから始末が悪い。またネットワークの鍵となるミリ波アンテナ技術はフェーズドアレイなどの軍用技術でもあり、エリクソンやノキアといえども民間企業では手が出ないところもある。

 

 

 今後欧州委員会や各国政府でファーウエイリスクの議論がさらに深まるとしても、大手通信会社の思惑は安全保障よりも「技術とコスト」に傾くことは目に見えている。結局は利益を守る為に見切り発車する可能性が高い。ファーウエイは今や世界の通信機器を支配してきたエリクソンとノキアを凌ぐようになったことは無視できない。誰もが中国企業を粗悪品と決めつけ、「技術とコスト」で圧倒的優位に立つ時代を想定してこなかったことが裏目に出たようだ。