最新研究がオゾン層の危機を警告

13.10.2017

Photo: earthobservatory.nasa

 

オゾン層の危機が叫ばれてモントリオール協定でフロン使用が禁止になった後、オゾン層の減少に歯止めがかかり危機は去ったと思われていた。しかし東アングリア大学の研究グループは、モントリオール協定で規制されなかったフロン以外の物質によって、再びオゾン層が危機が迫っていることを明らかにした(Oram et al., Atmospheric Che. Phys. 17, 11929, 2017)。

 

30年前に締結されたモントリオール協定では、オゾン層を破壊する化学物質の使用を禁止した。これによって徐々にオゾン層の減少は低下し一旦は徐々に回復した。しかし規制対象外の化学物質の放出は続けられた結果、再びオゾン層減少の危機が迫っていることが明らかになった。

 

地球に降り注ぐ有害な紫外線を遮断するオゾン層は地球上の生物を放射線被害から守っている。これらの規制対象外の化学物質が安全とされたのは寿命が短い(6カ月)ために大気中に貯まらないと考えられたからである。しかし研究によれば東アジアでは短寿命の化学物質が大気中に大量に放出された結果、成層圏に到達しオゾン層に無視できない影響を与えている。

 

中国の工場から放出された化学物質はシベリアから吹き込む冷たい気流に乗って南下し熱帯地域に到達すると成層圏に運ばれてオゾン層の脅威となる。最も影響の大きい化学物質の一つはジクロロメタンで、大気圏の濃度は1990年代と2000年代前半は減少傾向にあったが、現在は60%も増大している。研究によるとジクロロメタン排出量の50-60%が中国によるものだという。

 

研究グループは50種類の化学物質を対象にマレーシア、台湾で成層圏の濃度測定を継続して行った結果、モントリオール協定の規制対象物質は減少しているが、対象外の化学物質の放出が発展途上国を中心に続いていることを明らかにした。別のオゾン層の危機を警告する論文(Hossaini et al., Nature Comm. 8:15962, 2017)のジクロロメタンのシミュレーションを下図に示す。

 

 

Credit: Nature Comm.

 

ジクロロメタン以外にもPVC製造に使うジクロロエタンもオゾンに大敵であるが中国は世界最大のPVC生産国であり、排出量も突出している。Jイクロロエタンは毒性がある一方で工業的に価値が高いため、大気中への放出は考えにくい。

 

ジクロロエタンが放出地域から数1000km離れた熱帯地域の高度12kmで観測される。その理由は冷たい気流が流れ込んで熱帯に運ばれるためと考えられる。中国の成長は自国の環境汚染を引き起こしただけでなく遠く離れた地域のオゾン層を破壊することにつながる。世界経済を牽引する成長の代償は紫外線に晒すオゾン層破壊という地球規模のリスクであった。