ロシアの新型ミサイルSatan 2で米露軍事バランスに変化

27.10.2017

Photo: collapse

 

 ロシアは1基でテキサス州全土あるいはフランスを壊滅させる威力を持つ核兵器搭載ICBMSatan2RS-28 Sarmat)の打ち上げ試験を行う。1基に10個以上、総計40メガトン核兵器(MIRV)を搭載できるSatan 2は旧型のSatanR-36M/SS-18)の後継として2019年から配備が予定されている。

 

Satan 2とは

 モスクワの新聞(Kommersant)によると今年度中にSatan 2の発射実験は2回行われる予定。Satan 2の特徴は液体燃料式でありながら、射程約10,000kmの現有ICBM1/2の軽量で移動可能であること、マッハ20でレーダー網をくぐり抜けて、英国から米本土全体を標的として1基で12カ所の核攻撃を同時に行えることである。特に核兵器は超音速滑空弾頭輸送システム(Yu-71/Yu-74)で別々の攻撃目標に運ばれるMIRVとなる。Satan 2は総重量が100トンで10トンの核兵器搭載能力があり、世界最大の核兵器運搬能力のあるICBMであると同時に、ステルス機能でレーダー網にかからない。

 

 米国は北朝鮮の挑発で高まる核戦争危機に備えるため、また短期的にはトランプ大統領訪韓の安全保障のため、冷戦時以来初となる戦略爆撃機B52の空中配備を再開する準備を進めている。しかしその背景には空軍が切望する本土に530基(START発足時は550)配備されているICBMミニットマンIII(注1)の更新に向けたアピールがあるとされる。老朽化したB52の空中待機には相当な追加予算が必要となることもあるが、ロシアのミサイル開発がICBMの軍事バランスに影響を及ぼす可能性があるからである。下図で明らかなように米国は潜水艦発射型のSLBMを(固定サイロICBMの脆弱性を認めて)優先させたため、ICBMに限れば量的優位性はロシアにある。

 

Credit: AFP (Source: Bulletin of the Atomic Scientists)

 

(注1)米国の戦略核攻撃の中心となるICBMで、配備数は530とロシアに対する量的優位性は変わらないが、固定サイロ発射のため、先制攻撃に対する脆弱性が指摘されている。2020年までの稼働で更新時期が迫っているため空軍は更新を目指しているが、1700万ドルと高額であるため、財政難で更新予算のめどはたっていない。

 

  

 米国が軍事バランスで圧倒的優位とされてきたのは冷戦時であり、ミサイルの開発を緩めないロシアと現有兵器の老朽化でバランスが崩れる瀬戸際にある。戦略爆撃機B52が退けばB-1には核兵器搭載ができないため、ミニットマンIIIの更新が最優先となるが、財政難が立ちはだかる。ミニットマンIIIにはアップグレードが施されるが、空軍当局はそれでもロシアに対する米国の劣勢は変わらないとしている。