癌細胞の増殖速度を抑える新しい手法

28.05.2017

Credit: Rochester University

 

癌は複雑な病気であるがその定義は極めて単純で、異常細胞の増殖である。ロチェスター大学RNA生物学研究センターの研究グループは肝臓癌と子宮頸癌に対して、異常細胞の増殖速度を抑える新しい手法を開発した(Science 356 6340 859 (2017))。

 

異常細胞すなわち癌細胞の特徴は「細胞周期」の異常である。全ての正常細胞では分裂と成長がDNAの複製と分配を含む一連の周期を持つ。癌細胞では細胞周期が暴走し分裂・増殖を際限なく繰り返し周囲の正常な細胞組織まで侵略して破壊していく。

 

鍵となるTudor-SN

研究グループは細胞周期が分裂する前の準備状態で重要な役割を有するTudor-SN蛋白に注目した。この蛋白をゲノム編集技術CRISPR-Cas9で取り除いたところ、細胞分裂に要する時間が増大、すなわち増殖速度が低下した。

 

 

 

Credit: keywordsuggest

 

Tudor-SN蛋白は正常細胞より癌細胞に多く存在することから、Tudor-SN蛋白を標的とする新治療法で癌細胞の増殖速度を抑えこめる可能性がある。すでにTudor-SN蛋白をブロックする薬剤は知られており、今後この治療法で癌細胞の成長を遅らせることができると期待されている。

 

分裂を抑えるメカニズム

Tudor-SNが細胞周期に影響を与えるメカニズムはマイクロRNAを制御することによると考えられている。Tudor-SN蛋白が除去された後にマイクロRNAが増大する。増大したマイクロRNAは遺伝子に増殖(複製)を抑えるブレーキの役目を果たす。これらの「遺伝子スイッチ」をオフとすると細胞は準備期から分裂期にゆっくりと入り、正常速度で分裂が起きる。

 

マンチェスター大学の研究グループは癌細胞が異常な細胞周期を持つことに着目し、細胞周期を正常に戻す研究が癌細胞の抜本的治療法への早道だと考えている。今後Tudor-SN蛋白と他の分子とどのような協調反応をするかを調べてTudor-SNに効果的に作用する薬剤開発を試みる。

 

なおTudor-SNについては世界中の研究者が注目して研究を行っている。中でも中国の研究が最近多くなってきた。癌治療は遺伝子的手法が主流となりそうだ。