癌細胞のエネルギー源を遮断する分子

15.09.2017

Photo: dddmag

 

グルコースを様々な方法で分解して癌細胞の成長のエネルギー源とするワールブルグ効果は、癌細胞成長の鍵となるためこれまで多くの研究で調べられてきたが、不明な部分が多い。デューク大学癌研究所の研究グループは炭水化物の代謝の制御系等を明らかにし、実験室実験でこの代謝システムを阻害する物質を発見した(Locasale et al., Cell Metabolism, online Sept. 14, 2017)。

 

研究グループは炭水化物の代謝メカニズムが癌細胞のワールブルグ効果(注1)が正常細胞と異なることを見出した。癌細胞ではGAPDHと呼ばれる酵素にワールブルグ効果が局在してグルコース分解速度を制御していることを突き止めた。

 

(注1)体細胞が酸素呼吸によらず、発酵(酵素)に依存することで癌細胞が発生するとした説。1955年にオットー・ワールベルグが提唱した。

 

 

ワールブルグ効果はほとんどの癌細胞で強いことが知られているが、中には弱い癌細胞もある。GAPDH酵素と癌細胞成長の関係から、GAPDH酵素の測定で癌細胞のワールブルグ効果の影響を評価することができる。ワールブルグ効果が強い場所を標的とすることで、エネルギー代謝を阻害することが可能になる。

 

研究グループによればこれまで特定の遺伝子変異を標的として癌細胞を特定する癌治療が行われてきたが、代謝システムの特異性を標的とする治療も癌細胞の成長阻害に役立つとしている。

GAPDH酵素の阻害剤として糖類を分解する真菌が作るコニンギン酸(KA)(注2)がある。

 

(注2)コニンギン酸は真菌(糸状菌トリコデルマ菌の一種)から単離され、真菌がエネルギー源となる糖類を他の生物から守るために使われる。コレステロール値を下げる効果がある。

 

研究グループはコニンギン酸がGAPDHを選択的に阻害することを確認した。このためワールブルグ効果をGAPDHで置き換え、これを阻害するコニンギン酸を投与すれば、癌細胞のエネルギー源を遮断することになる。新しい癌治療法として期待されている。

 

 

Credit: chem.uwec.edu