海水酸性化が海洋カーボンサイクルに与える重大な影響

27.05.2017

Photo: e-education.psu.edu

 

未来の海洋を模した海水中の有孔虫の生態を研究した結果、地球上のカーボン・サイクルに重大な変化が起こりつつあることが明らかにされた。カリフォルニア大学デイビス分校の研究グループは単細胞動物である有孔虫から、CO2の増大による海水の酸性化で海洋生物の代謝が変化し大洋のカーボンサイクルに影響を与えることが明らかになった(Scientific Reports 7 2225 (2017)

 

有孔虫は海水中に大量に生息し食物連鎖の下位にあって、海洋カーボンサイクルに重要な役割を果たしている。プランクトンは浮遊性有孔虫である。研究グループは将来のCO2増大による海水の酸性化をシミュレートし、酸性環境下で有孔虫の生態を調査した。

 

海水の酸性度を変化させて比較したところ、CO2濃度が高い未来環境で有孔虫は殻(炭酸カルシウム)を成長できなくなることをみいだした。また生理的ストレスに置かれ代謝機能が低下し呼吸も落ち込むことがわかった。この結果は大気中のCO2濃度が殻生成、脊椎維持、生理的ストレスに影響を与えることを検証した初めてのものである。

 

有孔虫のつくるカルシウム炭酸塩は海洋のカーボンサイクルで重要な役割を持つ。有孔虫の死骸は海底に沈みその貝のカルシウムが炭酸塩をつくることで海水中のCO2を固定する(取り除く)からである。この機構が働かなくなると海水の酸性化が進むので、有孔虫の死滅は海水の酸性化が加速することを意味する。

 

Credit: pmel.noaa

 

問題は深部の酸性の海水はそのままではなく湧昇によって上昇して水面に近い、すなわち魚類が生息する浅い海水をも酸性化することである。このことは魚類に致命的な打撃となるばかりではなく大気と海洋のCO2全量、すなわちグローバル・カーボンサイクルに影響が出ることを意味する。湧昇はこれまで生態系にとって欠かせない役割を果たしてきたが、大気中のCO2濃度の上昇次第では、カーボンサイクルに「負の」効果をもたらす。

 

有孔虫が環境(CO2濃度、酸性度)に適応すると考えるのは間違いで、このまま放置すれば深刻な環境悪化を引き起こすと懸念される。排気ガス規制は地球温暖化のためではなく海水の酸性化を防ぐために必要なことだったのである。