巨大ハリケーンでフロリダ原発が危機的状況

08.09.2017

Photo: powermag

 

 米国フロリダに接近中のハリケーン「イルマ」はこれまで米本土を直撃したカテゴリー5のハリケーンの中で、最大風速185mph(295kph)で過去2番目に強く、大きさは120マイル(192km)、フロリダ州とほとんど同じ直径を持つ。イルマは勢力を強めながらプエルトリコ、ジャマイカ、キューバを通過し、10日にはフロリダ州南部を直撃すると見られている。米フロリダ州は非常事態宣言を発令、避難勧告、水と食料、災害品を求める人たちで混乱が起きている。

 

 イルマによって打撃を受けるのは一般のインフラだけではない。フロリダ州の3カ所の原発のうち、クリスタルバレーは運転中止していたが、セントルーシー、ターキーポイントにある計4基の加圧水型原子炉(PWR)は稼働していた。マイアミの南で大西洋に面したセントルーシーでは老朽化した1,2号機が2003年に運転許可更新を受けた。マイアミの北のターキーポイントでは3,4号機(注1)が稼働し、ターキーポイントには新たに6,7号機が計画されている。

 

(注1)1,2号機は火力で原発は3,4号機の2基。

 

原子炉を停止した電力会社

 海に近い設置の原発では海水の侵入で電源設備が使えなくなれば福島第一事故と同じような全電源喪失に陥ることを警戒しての事前の措置と考えられるが、電力不足は避けられない。ハリケーンの影響で海水が浸入する恐れのあるため、電力会社はセントルーシーとターキーポイントの原子炉を停止した。

 

 1992年のハリケーン「アンドルー」ではターキーポイントの原子炉は重要な箇所に甚大な被害を被った。1992年のハリケーンの最大風速は140mphであったがイルマは大幅に上回っており、今後200mphに達すると考えられている。

 

 米原子力規制委員会(NRC)の懸念は原子炉の閉鎖には時間がかかるため完全に停止しないうちに暴風雨圏内に入る可能性である。海抜6mに設置されている原発構内に現在、イルマ通過で観測されている8mの高波が押し寄せれば、浸水は免れない。バックアップ電源は安全な高台に設置されるのが普通だが海水で電源関連のインフラが損傷することも想定しなければならない。

  

 

リスクの高いターキーポイント

 イルマの脅威によって再び海岸近くに設置された原発の安全性の議論が沸き起こり、ターキーポイントに計画中の2基の原子炉建設計画への影響は避けられない。海岸近くに囲まれていることによる高波に対する脆弱性はこれまでにも指摘されていた。拡張して新規原発を建設する計画をめぐって安全性が懸念されていた。今回のハリケーンで原子炉インフラに重大な被害を出せば原子炉拡張計画の命取りになりかねない。

 

 ターキーポイントの原子炉冷却は特殊な方法が採用されている。周囲に巨大な人工運河(貯水池)を作りBWRの2次冷却水を循環させている。しかし人工運河の水温が上昇したため海水を注入して冷却した際に、トリチウムが海洋に流出し地下水が基準値の200倍を超えるトリチウムで汚染された(2016年3月)。ターキーポイントの周囲にある巨大な人工運河があふれ出れば原子炉の2次冷却水が洪水に混入する危険性が高い。

 

 米国の新規原子炉建設の遅れの原因の一つは建物設計基準の強化だが、自然災害への安全対策の強化でさらに原子炉建設コストは増大する。イルマの原子炉被害次第では原子炉建設計画全体が影響を受けることになる。フロリダ州の南部は広大な湿地帯で水害が起これば半島の大部分が水没しかねない。イルマの試練は温暖な気候を求めて移ってきた高齢者や富裕層にとどまらず、自然環境にも影響が残る。

 

 

Credit: NOAA

 

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