世界の中央銀行が検討している独自のデジタル通貨

21.10.2019

 

 8月に開催された世界の中央銀行の年次経済シンポジュウムで、イングランド銀行のマーク・カーニー総裁は、世界金融システムにおいて、1994年のブレントウッズ合意以来の大規模な変革の必要性を提唱した。米ドルが世界の基軸通貨であり続けてはならないと述べ、特定の一国の通貨ではなく、代わりに複数の政府発行のデジタル通貨の基準バスケット方式の採用を提案したのである。

 すでに中国は独自のデジタルコインの立ち上げの最終段階にあり、ロシア、スイス、英国、スウェーデン、シンガポール、イスラエル、インド、タイ、カナダなどの中央銀行は、独自のデジタル通貨の採用を検討中か導入の準備を進めているかの状況にある。

 各国の中央銀行によるデジタル通貨の採用の利点として、コスト削減、業務効率、マネーロンダリングの防止などが挙げられている。しかし、カナダの中央銀行は、その本質的な理由とも考えられる「仮想通貨の直接的な脅威」として銀行の存在維持のための対応であることを明らかにしている。

 中央銀行のデジタル通貨システムにより、人々がどのようにお金を使うかという、現金では難しい情報を銀行は収集することができる。全てのお金の取引を監視することが可能となるのである。また、犯罪に関わる取引や脱税を阻止する目的で警察や税務当局との個人情報の共有も検討されている。

 最初は現在使われている紙幣やコインと並行してデジタル通貨を使うことになるが、最終的には現金が廃止され、完全にデジタル通貨に置き換えられるプロセスとなる。キャシュレス化が進むと「たんす預金」はなくなり、銀行口座を通じて全ての国民のお金の取引が把握される。中国政府が警戒している海外への資金の流出や銀行への信用不安で起きる取り付け騒ぎなどの問題も解決される。

 中央銀行がデジタル通貨を導入する最大の理由として考えられるのは、ビットコインなどの仮想通貨やFacebookのリブラ・デジタル通貨では中央銀行の管理下に置けないからである。中央銀行は独自に発行するデジタル通貨の供給を管理し、金融政策を実施することが可能となる。

関連記事:
マイナス金利政策が具体化する可能性 
現金廃止を加速する欧州

世界初の電子マネー国家