セメントのクリープ現象の微視的メカニズム

05.05.2018

Photo: lcc-ucla

 

米国のサウスウエスト航空のタービンブレード破壊に続いて機体の窓ガラスの破損と、大事故につながりかねない航空機の疲労破壊が増えている。また老朽化した橋桁の崩壊やダムの壁のひび割れなどは米国の老朽化インフラの代表である。米国に限らずセメント(ケイ酸カルシウム水和物)の破壊につながるクリープ(応力変形)現象の微視的な理解が老朽化インフラを抱える先進国共通の緊急の課題となっている。

 

米国の公共建築学会の調べでは2025年までに必要なインフラ整備には45兆ドルと見積もられている。金属材料の疲労破壊を最小限に抑える技術で寿命を延ばすとともに安全性が担保できる。カリフォルニア大学(アーバイン校)の研究チームは材料設計の段階で疲労破壊を避けることを目的として、新しいシミュレーション技術を開発した(Marshedifard et al., Nature Comm. 9: 1785, 2018)。

 

研究チームは原子・分子レベルでコンクリートやガラスなど非晶質物質の疲労を数値計算する疲労シミュレーションに取り組んだ。開発されたシミュレーションコードでは老朽化による疲労破壊を予防するだけでなく、疲労破壊を最小限に抑える材料開発が可能となる。

 

材料の老化は原子レベルと分子レベルで生じるため、これまでの方法では長期間にわたる微視的な変化を追跡することは困難だった。 材料の計算機シミュレーションでは、わずか1秒の過程を記述するために数千分の一の時間ステップでシミュレーションする必要があるため、材料の長期スケールでのシミュレーションは現実的ではない。

 

研究チームのストレス印加シミュレーションでは、材料の分子構造に周期的な応力変動を与え、そのような摂動に対する材料の応答を解析する。ケイ酸カルシウム水和物では、時間依存性現象の根底にあるナノスケールのメカニズムに適用し、層間水が徐々に増加するとケイ酸カルシウム - 水和物の時間依存応答が、粘弾性から対数クリープへの遷移を示すことを見出した。

 

これらの知見は、原子シミュレーションとナノメカニカル実験測定との間の橋渡しをし、金属や酸化物ガラスなどの劣化した建築材料や他の不規則なシステムの設計の道を開く。この新しいシミュレーション技術を適用すれば構造材料の組成とテクスチャと時間依存性の関係が得られ、材料の長期スケールの変形(破壊)のシミュレーションが可能になると期待されている。

 

Credit: Nature Comm.

 

上図左(a)の黒い帯はケイ酸塩層を表し、濃い青色は層内または吸着水、薄い青色はナノ球体間の水を示す。 下段の原子モデルでは、赤は酸素、青は層間カルシウム、シアンは層内カルシウム、白と黄はそれぞれ水素とケイ素原子を表す。 (b) 密度および層間間隔の変化および小角中性子散乱密度測定との比較。