ロシア元2重スパイ暗殺未遂事件の真相 Part 2

23.04.2018

Photo: independent

 

 化学兵器禁止機関(Organization for the Prohibition of Chemical Weapons: OPCW)は4月12日にセルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリアさんの暗殺未遂事件に使われた化学剤の分析の結果を発表した。旧ソ連軍が開発した神経剤の「ノビチョク」と断定していた英政府だが、公表されたリポートには使われた化学物質の正体は公表されなかった。不純物が全くなく、高い純度の「有毒な化学物質」と確認、化学物質がどこで製造されたかも特定されていない。

 

分析に使われたサンプル

 スクリパリ親子の血液サンプルと現場に残された証拠物質、イギリス軍のポートンダウン化学兵器研究所が提供した証拠サンプルがOPCW内の研究所と複数のOPCWに認定された指定研究機関で分析された。その中には核・化学・生物兵器に対する研究を行っているスイスのシュピーツ研究所(Spiez Laboratory)が含まれている。分析結果は一般公表と加盟国用の機密報告の2種類が用意された。

 

 ロシアのロブロフ外務大臣は14日に、その機密報告には多くの国で開発された化学物質の化学式が特定されていることを明らかにした。またシュピーツ研究所との確認で、同研究所の分析結果の一部しかOPCWの最終報告に含まれていないことがわかった。

 

 

シュピーツ研究所の分析報告書

 ロブロフ外務大臣によると、シュピーツ研究所がOPCWに提出した分析報告書には「サンプルには有害な化学物質BZ(Bz-A-CE Phosphoramidite)とその前駆体が残されていた。BZは一時的に神経麻痺の状態を引き起こし、接触後30~60分以内に効果が現れ、効果は最大4日続くとされる。この化学物質は米、英、NATO諸国の軍で使われていたもので、旧ソ連、ロシアは開発又は保管した記録のない化学物質である。さらに、サンプルの中にはA-234神経剤の始状態と変性した状態が発見されている。」と指摘した。

 

 A-234神経剤は「ノビチョク」の系列ではあるが、ノビチョクの開発者の一人であるレオニード・リンク氏は、「OPCWが純度の高い化学物質が使われたと報告しているが、高純度の有毒な化学物質が使用されたというOPCWの報告は、それがノビチョクではないことを証明している。 ノビチョクは複雑な神経麻痺物質で、多数の成分や添加物の混合物からなり分解しやすい。 純粋な物質が見つかった場合、それはノビチョクではないことになる。」としている。

 

 

 BZはLSDの25倍の効果があるとされる。1950年代にCIAと国務総省が開発、1960年代にはMKULTRAプログラムの一部で実験的に使われた。ベトナム戦争中に50トンが製造され、一部が使われたとされる。英国もイギリス軍の化学兵器研究所のポートンダウンで製造、無差別にイギリス国民に実験的に使われたことが報告されている。

 

 メデイアに一斉に流れた「ノビチョクが使用された」という表現は正しくないことが証明された。BZやA-234が使用されたとすると、ロシアが使用した神経剤とは言えず、ロシアに濡れ衣を着せた第三者の工作の可能性が高くなった。