「謎の騒音」の正体は衝撃波か

17.01.2016

Photo: snowbrains

 

戦闘機が音速を超える時に発生する衝撃波(Sonic Boom)は地上の建物の窓を破壊することがある。全米各地で米空軍の戦闘機によるとみられる衝撃波による怪音(注1)や振動が報告され話題になっている。しかし英国ケント州の住民が体験した衝撃波波はスクランブルした英国空軍のもので、あわや領空侵犯したロシアの航空機が撃墜される危険性があった。

 

(注1”Mysterious Boom”と呼ばれる原因不明の騒音が全米で報告されている。多くの市民が窓ガラスを揺らす振動と騒音を報告している。原因は不明で様々な憶測を呼んでいるが最も疑わしいのは戦闘機による衝撃波である。広島・長崎の原爆でも衝撃波が衝突地点から空気を伝搬し建物が破壊された。核爆弾の衝撃波はマッハステムと呼ばれ爆発エネルギーの半分ほどを伝搬すると考えられている。

 

201410月にロシアの貨物機アントノフAn-26が英国領空を侵犯した後も進路を変更しなかったため英国空軍のタイフーン戦闘機がスクランブル発進して迎撃態勢に入った。英国空軍の担当者は「進路を変更しなければ撃墜する」という警告をロシア機に送った。迎撃のために飛び立ったタイフーン戦闘機はその際に衝撃波を発生しそれを住民が体感したことがわかった。

 

驚いたケント州の住民はTwitterに書き込んだため噂が広まり話題となった。一部の住民は米国の報告同様に建物の振動を経験したという。騒ぎが大きくなったため英国空軍当局もTwitterで謝罪し、ロシア機迎撃のためのものであることがわかった。

 

ケント州の怪音の正体は衝撃波だったが全米の”Mysterious Boom”の正体は未確認である。世界各地でも奇妙な騒音が観測されていて専門のサイトは世界各地で起こっている”Mysterious Boom”を伝えている。そのひとつの米国東部のデルマーバ半島で2015922日に起きた雷のような騒音についてNASAが原因究明のため調査を開始した。衝撃波のような音であったが付近にある海軍基地当局は飛行中の飛行機はなかったとしている。

 

 

Source: Mailonline

 

コンコルドが2003年に飛行中止に追い込まれたのも東海岸一帯にもたらす衝撃波が原因だった(上の図)。ジェット旅客機の発着が集中する東海岸だが、旅客機のほとんどは亜音速で衝撃波を発生しない。1970年代の衝撃波の被害は超音速コンコルドによるものであった。

 

専門家によると海上の衝撃波がジェット気流で内陸部に影響を及ぼすことも考えられるとしている。実際、海上では軍用機の超音速飛行が日常的に行われている。怪音の原因については諸説あるが超音速軍用機(SR-72; Aurora)(注2)の試験飛行の可能性も含めて軍用機の衝撃波である可能性が高い。もっとも何故、陸地に影響を及ぼすほど内陸部に近い場所で超音速飛行を行うのかも謎である。

 

 

 

(注2)英国アバデイーン周辺でSR-72の飛行実験によるとされる定期的な衝撃波が観測されている