ハイブリッドジェット機とE-ファン

04.02.2016

Photo: flying

 

ロールスロイス社(RR)はエアバス社のA350 XWBに同社のヒット作であるターボファンエンジンTrent1000の後継機、Trent1700を改良してTrent XWBとして独占供給する。

 

A350 XWBはボーイング社B787の開発の遅れもあって優位に販売を展開しているが、A330neoを含めると広範囲な客席数に対応出来る体制が整うことになる。A330neoには20156月に完成したTrent7000(注1)が独占供給される。RR社のエンジンはボーイングB787でもP&W社(注2)と選択できるが、最近はエアバス社との独占供給契約が増え、エアバス社のジェット旅客機とともに販売を伸ばし開発が進んできた感がある。

 

(注1A330neoの前身であるA330のエンジンに採用されたTrent700の発展型で、Trent1000の最新型Trent1000TENを改良したもの。Trent700より燃費は10%向上しバイパス比が2倍に向上している。A330ではGEPWRR3社からエンジンが選択可能。A320neoではGEP&Wがほぼ同数使われている。

 

(注2TrentエンジンとP&WGEエンジンの違いは3軸か2軸か(ギアードターボと呼ぶ減速ギアの有無に依存)。ギアードターボは回転速度を上げてタービン効率を追求すると同時にターボファンの回転速度をギアで下げて、圧縮効率と燃焼効率を両立させたエンジン型式でP&W社がPW1000Gで先行開発した。原理的にはターボプロップエンジンに採用されていたものと同じだが遊星ギアにより同軸とした点が新しい。

 

 

RR社のエンジン開発はエアバス新機種開発と独占供給契約で、拍車がかかり20142月に今後の10年を睨んだ次世代エンジン構想を発表した。その概要はAdvance(上)とUltraFan(下)と呼ぶ二つのエンジンシリーズである

 

両方のエンジンでは燃焼効率を上げて排気ガスを削減する環境性能とファン構造材にカーボン・チタン複合材料を用いて軽量化が特徴である。AdvanceではTrent XWBを基本として後部の2軸ファンを改良した3軸型がとなる。UltraFanではターボファンに減速ギアと可変ピッチ翼を採用した2軸型になる。

 

Advance及びUltraFanでは同社(Trentエンジン初代)比較でそれぞれ20%25%燃焼効率とCO2排出量が向上するほか、最大680kgの軽量化により燃費の大幅な向上が期待されている。稼働中のTrentエンジンは2,500基、受注数が2,500基である。2025年までに予定されている次世代エンジンの登場でA350 XWBA330neoの後期機種の性能向上が期待出来る。

 

エアバス社はE-ファンと呼ばれるモーター駆動の小型電気飛行機の開発を行っており、20157月に英仏海峡横断に成功している。これは同社が大型旅客機をハイブリッド化するための研究開発でもある。構想では中央に設置した1基のタービンで発電しバッテリーに充電した後、モーターを駆動して胴体後部の6基のファンを回す。これは自動車に例えればハイブリッド車(HV)に対応するが、HV車の中でも常時モーター駆動でエンジンは発電にのみ利用する形態である。

 

大出力ーターを駆動するためには大電力を供給しなければならずそのために銅線を使うと重量が増えて不利になるため、同社では超伝導ワイアーを使うとしている。

 

超伝導ワイアーの利用は画期的ではあるものの現在最高の超伝導臨界温度は圧力下でH2Sの持つ203K(マイナス70度)。液体窒素冷却(77K)で超伝導状態にすることができるが、高空では外部の空気を取り込めば良いので230K以上まで臨界温度が上がれば、冷却は上昇下降のみが中心で液体窒素の消費は少なくて済むようになるかもしれない。

 

次世代Trentエンジンの先には電気モーターエンジンがあるのであれば水素を燃料として燃料電池で発電する選択肢もある。未来の自動車としてEVFCVが考えられているようにジェット旅客機の世界でもE-ファンと燃料電池駆動系があるのだろう。NASAJAXAではプラズマスラスタの開発も行われているので2-30年後にはターボファンエンジンを見ることはなくなるものと思われる。