中距離ミサイル迎撃システムTHAADの実力

June 27, 2015































Photo: Turbo Squid

 

  ケリー国務長官が韓国への配備を求めているTHAADはPatriotの後継とみなされる。日本でも北朝鮮のミサイル発射の予告のたびに都市部を防衛するためPatriot-3が配備されるが、THAADとはどのような性能なのか。


 THAADは弾道ミサイルが大気圏に再突入して攻撃の最終段階に入るときに迎撃、破壊するミサイルシステムでTerminal High Altitude Area Defense missileの略。



 Photo: Wiki

 

 THAADは上の写真のように1段式固体ロケットブースターに搭載される弾頭はKKV(Kinetic Kill Vehicle)と呼ばれる、赤外線誘導の運動エネルギー弾で1段目から切り離されてから、赤外線誘導で飛行コースを修正しながら目標弾頭に衝突して破壊する。

 

 THAADシステムは10発を収納する発射ケースで地上を移動、もしくは官邸に装備されて迎撃する。迎撃にはXバンドのフェーズドアレイレーダーと組み合わせた誘導システムが使われる。

 

 THAADはロッキードマーテイン社が製作するが、レイセオンをはじめとする兵器メーカーを含む企業も参加した総開発費100億ドルの最新防衛システムである。北朝鮮による核の脅威にさらされる日本にもPatriot PAC-3の後継システムとして、当然配備が検討されるだろう。事実、すでに青森にXバンドレーダーは配備済みである。

 


Photo: Pakistan Defence

 

 

 弾道ミサイルの迎撃システムは上図のような多重システムで対応する。THAADは中距離弾道ミサイルの飛翔パターン(大気圏突入角度)で最終段階すなわち自由落下する弾頭のみを狙った高度(40-150km)で撃墜するが、それ以外の条件、制限された高度範囲で最終段階となる場合に有効で、その条件以外には無力である。

 

 THAADは中有距離弾道ミサイルの最終段階(大気圏再突入)での迎撃であるので、高い迎撃率が要求される。このためには誘導システムが高精度であるほか早期発見が鍵となり、「システムの眼」となるXバンドレーダーへの依存度は高い。

 

 アメリカは昨年から韓国内への配備を促しているが、中韓接近により配備に反対する中国の意向で、配備に難色を示している。日本にとっては日本海を挟んで北朝鮮、ロシア、中国から発射された中距離弾道ミサイルの防衛にPatriotにTHAADが加われば、安全保障上望ましいことは間違いないが、日韓関係の悪化で韓国が配備に協力しなければ、国内配備の議論がでるのも時間の問題である。

 

 韓国にとってはTHAAD配備を受け入れることは中国をとるかアメリカをとるか試練といえるが、北朝鮮の核ミサイルは日本、韓国にとって共通の脅威であるので優先的に解決しなければならない問題である。しかしTHAADの有効な対象ミサイルの弾道軌道の外(例えば北朝鮮から関東へ向けたノドン)には役に立たない

 

 韓国内に配備するTHAADは韓国内への短距離ミサイル防衛ではなく、日本の米軍基地とグアムを防衛するためと分析したのであれば、韓国の消極的な立場も理解できる。アメリカにとってはロシアとの冷戦では長距離弾道ミサイル(上の図の一番外側の飛翔パターン、ICBM)のみを考えれば良かった。しかし現在では北朝鮮の核脅威が日本や太平洋に展開する基地へ中距離弾道ミサイ攻撃も想定しなければならないため、上の図の全てのパターンに備えるには多重システムとせざるを得ない。

 

 韓国にその前線基地となってもらう必要性が高いが、韓国防衛のためとは言い難いことは明らかだ。要するにアジアの安全保障には韓国、日本、アメリカの一体運用が必要不可欠となったが、現実にその実現は程遠い。韓国がアメリカ離れを模索しているなら、日本の防衛も独自性を強める必要があるかもしれない。