原油価格の下落の原因のひとつは米国のシェールオイル/ガスの極端な増産にある。2000年前半に天然ガス価格が上昇するとこれに呼応するように、水圧破砕や水平坑井といった技術により、シェールガス生産はより高い収益をあげるようになった。そのため2005年からシェールガスの産出量はタイトガスと呼ばれる在来型天然ガスの減産傾向にもかかわらず天然ガス全体の生産量を押し上げて、ついに輸入量を上回った。
この動きは枯渇寸前の化石燃料の消費に拍車をかけて無くなるまで使い切ってしまおうとする、温室ガス排出規制を無視する行為で、再生可能エネルギーへの移行という時代の流れに逆行するかのようである。何故そこまでするのか。一体米国に何が起きているのか考察してみる。
何でもありのクリーンエネルギー
米国は2009年に誕生したオバマ政権発足時に風力、ソーラーといった再生可能エネルギーの利用促進や投資を弱体化した実体経済の景気回復、雇用創出の柱の一つとして位置づける政策を掲げた。しかしやがて再生利用エネルギーの拡大は時間がかかることから、「クリーンエネルギー」に原子力、天然ガス、クリーンコールを加えて、現実路線をとることに政策を変換した。何でもありのクリーンエネルギーへの投資拡大、利用促進を図ることで、エネルギー供給の安定化と自立を図る戦略をとることになった。
世界的な天然ガス価格の高騰傾向もひとつの要因ではあるが、相次ぐ中東への軍事介入の失態は米国を孤立化させ財政を圧迫すると同時に、エネルギー戦略において輸入すなわち中東依存からの脱却を目指すきっかけとなったとみるべきであろう。日本のタクシーで採用されているように天然ガスの方が、エネルギー原価が安く温室ガス排出も少ない。それに気がついた米国は天然ガスの将来性を勝ったのである。自国での天然ガス生産を高めるには豊富なシェールガス利用が手っ取り早い。
シェールガスの登場
水圧破砕の技術的課題も徐々に克服していたシェールガス業界は政府先導の大規模投資により、採掘規模を上げて採算をとる米国流の規模拡大を強行した。これによって弱小業者の自然淘汰や環境保全の問題を生じつつも天然ガス生産は急速に拡大した。
天然ガスの成分は産出地により差があるが、メタンが主成分でエタン、プロパンなどの炭化水素が加わる。世界の生産量はロシア、中東がほぼ1/3づつを占め、2005年までは北米生産量は少なかった。2005年以降シェールガス生産が急速に拡大し、世界の化石燃料によるエネルギー供給量を大きく拡大した。化石燃料の枯渇を目前に、時代に逆行する政策にどのような理由があるのだろうか。
混乱するエネルギー資源市場
2009年のリーマンショックで天然ガス価格は落ち込んだがその後、米国は国内生産が増えたため、値下がりしたものの欧州と日本では価格が上昇し世界的な供給不足の傾向にある。欧州諸国にパイプラインで天然ガスを供給していたロシアもウクライナ問題で供給が停滞し、欧州での供給不足と価格の高騰の要因になっている。酷寒のウクライナでは天然ガス安定供給は死活問題であり、欧州を巻き込んで紛争に発展した。
今後も米国は国内生産の増産を予定しており、2020年度にはシェールガスがタイトガスを上回るとみられている。再生利用エネルギー活用を看板にしながらその一方で時代に逆行する化石燃料増産政策をとる米国。原油価格の下落はOPECが減産に踏み切らないため、今後も続きシェールガスには再び自然淘汰の試練が待っている。
そこまでしてエネルギー資源の自給自足を追求する米国の真意は何か。原油ドルの将来性、中東諸国への支配力低下を冷静に評価した結果なのかも知れない。