直接民主制を要求する黄色いベスト運動

10.01.2019

Photo: france24.com

 

 フランスの黄色いベスト運動は当初の燃料税の引き上げ反対抗議運動から、反政府(マクロン大統領の辞任)、反グローバリズム、ロスチャイルド金融システムの崩壊やエリート支配階級への国民の不満と不信を呼びかける民主化運動となってきた。黄色いベスト運動による反政府デモは止まらず、12月末にはマクロン政権に新たな要望を突きつけた。それは政治的決定に国民が参加するスイス型の直接民主制の導入である。

 

争点となる国民発議制

 マクロン大統領は黄色いベスト運動の沈静化を図るため燃料増税の中止、最低賃金の引き上げや社会保障増税の中止などを発表したが、この「譲歩策」は過半数以上の国民に評価されず、黄色いベスト運動は政治的決定に国民が参加する直接民主制度の導入を要求した。

 

 黄色いベスト運動が要求している、直接民主制度における権利の一つである国民発議(Citizen Initiated Referendum: CIR)の導入は最新の世論調査でも80%のフランス国民が支持している。国民発議を導入すれば、フランス市民はイニシアチブを起こし、新しい法律、既存の法律の改正、憲法の改正、政治家や官僚の辞任などを求めることができるようになる。

  

 導入を求めている国民発議制では、70万人の署名を集めた提案書が国民投票にかけられ、過半数の賛成によって可決される。議会による賛成可決は不必要となり、国民は直接政治的決定に参加することになる。法律上、国民投票によって決定された事案は拘束力を持つことになるため、もしマクロン大統領の辞任を問う国民投票が行われば、支持率が歴代最低のマクロン大統領は確実に辞任に追い込まれることになる。

 

 国民発議の導入について、マリーヌ・ル・ペン氏が率いる極右派党の国民連合とジャン・リュック・メラション氏が率いる極左派党の服従しないフランス(La France Insoumise)は支持、マクロン大統領の共和国前進党の支持は低い。

 

マクロン政権はデモ禁止の強硬策

 マクロン政権は今後の反政府デモの拡大を警戒して、デモを封じる態勢を取り始めた。事前に登録、正式に政府許可がない市民運動、デモへの参加を禁止する法案が今検討されている。黄色いベスト運動を含む全ての反政府運動が禁止されることになるが、それはより激しい抗議運動、究極のポピュリズムである「市民革命」に発展する可能性が高い。

 

西洋の冬          

 「アラブの春」や「ジャスミン革命」のように、黄色いベスト運動は「西洋の冬」を呼びかけている。これはマクロン大統領の背後にあるロスチャイルド金融勢力と金融システムの崩壊、グローバリズムを提唱するエリートグローバリスト支配階級への反撃である。9日にはロスチャイルド銀行で抗議運動が起き、黄色いベスト運動が始まって、9週目となる12日の週末には、預金者に銀行から現金を引きあげ、取り付け騒ぎを引き起こすことを呼びかけている。

 

 銀行の取り付け騒ぎが起きれば金融混乱が起き、フランス経済の機能は停止、マクロン大統領の辞任だけでなく、これまでの金融システムの崩壊危機、EU崩壊を引き起こすきっかけとなる。民主化の旗を掲げる黄色いベスト運動は反グローバリズムの潮流が政権を揺るがす勢力になってきたことを象徴している。

 

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