430km/hの価値とは?


 リニア新幹線はJR東海の無謀とも思える9兆円予算で建設に踏み切った。民間事業の域をでない計画に国は手痛い出費は覚悟の上でのことである。ご存知のように上海には一足先に最高速430km/h、リニアの550km/hに迫る磁気浮上列車が営業運転をしている。


 車を運転する人、中でも飛ばすのが好きな人なら高速道路で120km/hで180km/h近くまで行くと、別の世界が広がることを知っている。わずか60km/hの差であるのに左右に流れて行く景色が景色として目に入らない。空気抵抗がこんなにも差があることも車から伝えられ、アドレナリンがわき出す。


 430km/hと550km/hの間の120km/hの差は空気抵抗、騒音、電力どれをとっても、大きすぎて営業運転の常識外の世界なのだ。一応、断っておくとこの速度は通常の列車でもだせないことはない。


 実際、TGVが記録を持っている。流線型でもないこの列車は相当無理をした運転になり、営業運転には絶えられない。


 上海の磁気浮上列車は常伝導マグネットで反撥力で浮き上がるのだが、わずか1cmの浮上なので、磁場に大きな摂動が加わると大変なことになる。実際に乗った感じと外から眺めた感じは、どちらも一瞬で終わる、ということである。


 上海国際空港から駅が近いことはありがたい。チケットもメチャクチャ高いものではない。発車と加速はスムーズであるが速度を上げる時間をかけるため、最高速度の430km/hに達するのはほぼ中間地点なので、数分間の体験である。


 外から見ていても通過は一瞬の出来事で鉄カメの人たちには気の毒である。さて一瞬の430km/h体験の後は減速に移り、都市部に入ると低速運転になる。問題は上海側の駅が地下鉄があるとはいえ不便極まりない。


 JR東海のリニアも当面は名古屋終点なのと同類である。一体、名古屋で乗り換えて関西に行く人たちがどのくらいいるだろうか。


 技術的にはJRリニアは超伝導マグネットを用いて浮上するが、そのメカニズムは単純な磁気浮上ではない。この計画には超伝導マグネットの長い技術開発とこれまでの新幹線技術の積み重ねがある。


 我が国の超伝導国家プロジェクトの目標として掲げられたリニアは営業運転の採算性は別にしても、いつかは実現せざるを得ない計画であった。


 安全性は地味な存在で表に出ないが、気持ちよく新幹線に乗ることができるのも過去無事故ということがあるからである。JR東海の計画は予算的に無理があることは明らかなのだが、新しい世界に先端を切って飛び込むというリスクを覚悟での英断には脱帽したい。


 名古屋ー大阪間の実現までリニア客には名古屋ー大阪間を無料にしたらよいと思う。