成層圏ジオエンジニアリングの科学的評価

26.03.2017

Photo: keith.seas.harvard

 

トランプ政権は気候変動説に否定的で今年度から9項目の環境予算を削減する。その一方で、ハーバード大は200万ドル(約2.1億円)を投入して、2018年に気球を使い成層圏(20km)での気候改変(ジオエンジニアリング)実験の効果を評価する。これまでケムトレイルと呼ばれる航空機の微粒子散布が各国で精力的に行われているが詳細や実際の効果は公表されていなかった。ハーバード大チームは科学的に太陽光遮蔽効果を評価する初めての試みとなる。

 

実験ではSO2、アルミナ、石灰などの微粒子を成層圏で噴霧した上でその反射率(アルベド)を計測する。またその分散や凝集状態、多物質との相互作用(化学反応)が調べられる。計画概要は2014年の論文で公開されていたが、その後アリゾナ州の観光気球会社と協力して実施手法を検討し、ジオエンジニアリング研究フォーラム“U.S. Solar Geoengineering Research”(を設立して実験にこぎつけた。

 

 

Source: keith.seas.harvard

 

今回の実験(上の模式図)では微粒子散布の太陽熱反射効果を実測する初めての試みであり、効果を確認し、ケムトレイルの科学的根拠を示すのが狙いである。ハーバード大チームは全地球規模への拡大をアピールする一方で、排出ガス規制を置き換えるものでないとしている(注1)。

 

(注1)地球の気温を決める熱収支は複雑で上の模式図には考慮されていない。太陽の熱エネルギーの経路に海水からの温室効果ガス放出や光合成による減少と再放出に産業活動が加わり相互作用があるため地球(気候)モデルは複雑系となる。トランプ政権が否定する地球温暖化説は仮説であり、地表気温と数百ppmレベルの温室効果ガス濃度との相関は検証されていない。温室効果ガスの温暖化への影響についてはアカデミアの多くは懐疑的で、少なくともIPCCの予測(1.8度)は過大評価であるとされている。

 

 

排出ガス規制は大都市部の健康被害を低減するためには必要だが、規制緩和で歯止めがかからなくなり、一方でジオエンジニアリングで地球環境悪化が懸念される。地球は複雑系なので輻射熱を遮れば、その影響は多岐にわたりそれらがまた影響し合うため、最終的な環境変化を予想することは難しい。実際1991年のピナツボ火山の噴火の粉塵の影響で日照量が減り欧州の夏場の気温が下がったため、欧州一帯に農作物の不作、飢餓、健康被害をもたらした。

 

成層圏に微粒子を散布すれば日照量が減り対流圏から成層圏への水の輸送が変化し、それによってドミノ式に地球環境変化の悪化を引き起こす恐れがある。今回のハーバード大の散布実験は規模が小さいので地球環境に直接影響を与えるものではない。しかし散布の効果が確認できればケムトレイルに学術的な根拠を持たせることができる。

 

 

ハーバード大は高度20kmで水分子を散布して氷の微粒子からスタートして、石灰岩微粒子などの化学物質微粒子の散布を予定している。この計画は地球気候のシミュレーションから一歩進んだフイールドでの実験評価となるが、環境変化を悪化させるリスクが無視できない。

 

 

地球気温上昇の危機が去ったとされる現在、地球環境悪化につながるジオエンンジニアリングの科学的根拠を示す必要があるとは思えないが、気候ビジネスに利益を見出すビルゲイツ財団など多くの財団がアカデミアに資金を援助している。ハーバード大の計画の目的は成功すればジオエンジニアリングに科学的な根拠を示すことになる。ただし「ケムトレイルに太陽光遮蔽効果はない」というのが専門家の見解である。