Photo: one america news network
昨年末からイラク政府軍(Iraqi Security Forces, ISF)が包囲し攻勢を強めていたISの最大拠点モスルは、1月18日にほぼ奪還され市民はISから解放されたとの報道を軍司令部は否定した。北部のチグリス川岸で抵抗を続けていたISとの激しい戦闘も一段落し、イラク軍司令官がモスル奪還を宣言したが、実際には完全に制圧されたわけではない。
イラク第2の都市モスルはこれまでIS戦闘員の最大拠点であった。モスルは2年半に渡ってISの支配下に置かれていたが、ISFがモスル奪還を目指してISとの戦闘を開始して3カ月でモスルをほぼ掌握したと宣言されたが後に軍司令部がこの報道を否定した。現実にはIS勢力の強い西部地区では今後もISの激しい抵抗が予想される。
モスル市内を北から南に流れるチグリス川を挟んで西部地区(下地図を参照)にはIS勢力が拠点を構えと東部が陥落した後も西側に展開したIS戦闘員の抵抗が激しさを増していた。残された1箇所の橋を渡ってチグリス川対岸の東部地区へ進攻し手からもISFは狙撃手、自爆テロ、砲撃などの激しい反撃によって釘付けにされた。
Credit: Institute for the Study of War, BBC
奪還後のモスルではISFが市内を巡回警備し、被害状況を調査している。市内にはISFとの戦闘と有志連合軍の爆撃で死んだIS戦闘員の死体が放置されたままで、激しかった西部地区の戦闘を物語っている。道路が狭く戦車を投入できない人口が密集した市内にはISを支持する市民もいるため、全ての戦闘が終了するのは春になると見られる。
このためイラク首相の公式見解も完全奪還は東部に限定されるとしている。モスル東部では10月に戦闘が始まって以来、IS戦闘員3,300名が戦死した。ISFの戦死者は1,959名、民間人は926名が犠牲となっている。
戦闘が始まるとIS戦闘員は協力的でない市民を殺害したため、戦闘に巻き込まれた市民の犠牲者が増えている。長引く戦闘でUNは150万人の市民の安全を憂慮しているが、UNの調べではモスルから避難した市民は160,000人に達してまだ増え続けている。
最悪の予想では700,000人の市民が避難することになるが、UNHCRが建設した6箇所のキャンプの収容能力は9,000所帯分で、さらに5,000所帯分の建設が開始されている。食料、水、薬剤が不足していることから避難民がやむなく欧州を目指せば、欧州の難民危機は一層深刻になることが懸念される。