人間の知性の根幹に脳内ネットワーク結合の柔軟性

20.11.2017

Photo: dailytimes

 

過去数世紀に渡る人間の知性形成と脳機能の関係について膨大な研究が行わレてきた。一部の研究者はニューラルネットワークの特定の領域が知性を形成すると考えているが、脳細胞のエネルギー代謝が重要だとする説もある。イリノイ大学の研究グループは知的刺激に対応する脳内ネットワーク間の動的結合の柔軟性が知性形成の根幹をなすことを最新の研究で明らかにした(Barbey et al., Trends in Cognitive Sciences 2017)。

 

これまで脳は例えば後頭葉は視覚情報処理というようにそれぞれの役割を分担する領域に分かれていると考えられてきた。しかし最近では視覚情報処理には対象を分類して記録と照合する必要があるなど、脳の別の領域との連携が必要であることがわかってきた。ヒトの進化とともに増大してきた計画を立てたり行動を決断する機能を持つ前頭前皮質が知性の根幹をなすと考えられてきた。

 

知性と脳内ネットワーク

しかし最近、特定領域のみが知性に関与するのではなく、知性は脳全体の協調した脳内ネッットワーク作業であることがわかってきた。脳内ネットワークのひとつの頭頭頂ネットワーク(frontoparietal network)は外的対象への注意喚起で活性化されるのに対して、関連事象に注意が向けられると腹側注意ネットワーク(salience network)が働く(下図)。このほかに脳がアイドリング状態の場合に動作する脳内ネットワークも存在する。

 

Credit: biologicalpsychiatrycnni

 

人間にあるふたつの知性

人間の知性には知識と経験が符号化して記憶されている結晶的知性(crystallized intelligence)の他に、極めて柔軟な適応推論や問題解決型の流動的知性(fluid intelligence)がある。結晶的知性は何度も繰り返し起動されるためネットワーク結合が強いが、流動性知性は脳が新規な事象に出くわすと起動する動的でネットワーク結合は弱い。人間は常に新しい知識や経験を書き込んで新しいネットワーク結合がつくられるため、柔軟であることが知性を高めるには重要となる。結晶的知性に比べて流動性知性は年齢とともに能力が低下する。

 

柔軟な動的ネットワーク結合と知性

この柔軟性が人間の脳機能に重要であることが認識されても、それが知性発現に根幹的な役割を果たすことがわかってきたのは最近のことである。結晶的知性には(ネットワーク上の)アクセスしやすい状態に柔軟に到達する能力が必要である一方、流動性知性にはアクセスしにくい状態に適応して到達する能力が必要となる。言い換えれば知性には脳の単独領域や単独ネットワークの活動ではなく、脳全体のネットワーク間の動的切り替えが重要であることになる。