中国の近代化路線の総括~より困難な次の5年

18.10.2017

Photo: bigbustours

 

 18日から始まった第19回党大会に前後して、中国の近代化の総括プロパガンダが活発になっている。焦点は人民主義(人民の幸福度)となる。1981年から2015年までに貧困から脱した7.2億の人口は欧州とロシアを合わせた人口より多く、米国の2倍で世界人口に占める割合は10%になる。

 

 経済成長が加速されるきっかけとなった2012年の第18回党大会から、2016年の党大会までに貧困層から抜け出すことができた国民は5,564万人となり、2017年だけで1,000万人となる。これは過去5年間で毎年平均で1,300万人が貧困層から抜け出したことになる(世界銀行調べ)。

 

 この統計が党の指導方針が「人民主義」であることを裏付けるものと党幹部は考えている。習近平総書記は党大会での演説でこのことから党の(習近平政権の)指導方針が成功したことを強調した。また中国方式の社会主義が新しい発展時代を迎えたことを契機に、人民主義のもと新戦略政策の必要性を訴えた(Weekend China Daily)。

 

 習総書記は人民の労働によって経済発展が成し遂げられ「新しい価値を持つ物質文明」が切り開かれたとして、人民を讃えるとともに今後の路線継続で得られた資産を人民に還元することを約束した。中国の抱える問題は過剰生産能力に代表される市場経済の停滞、貧富の格差、環境汚染、バブル経済などいずれも深刻である。

 

Credit: borgenproject

 

 習総書記は社会主義であるため、中国がこれらの(自由主義諸国が共有する)諸問題の解決が容易であることを強調する。中国の若いマルクス主義経済学者によれば第18回党大会から5年間で中国は経済発展と人民への富の還元を同時に成し遂げることが(中国式の社会主義では)可能であることを立証した点に意義があるとしている。

 

 2016年度までに13億人の国民の大半が健康保険を受けられるようになり、1,000万所帯が国の住宅計画の支援を受けている。習近平の戦略は中国が新しい発展時代に入ったことから、人民主義を貫く新戦略、新政策で次世代の成長維持を狙うものといえる。

 

 中国政府は国内の48万箇所で、高速鉄道や人工知能ロボットに代表される成果会を行う。北京の展示会には世界各国の外交官に公開され、注目を集めた。過去5年間の科学技術の発展はVRを用いるなど、わかりやすく国民にアピール将来も発展が期待できるとした。

 

 925日から開催された展示会には48万人の参加があり国民が成果に強い関心を持っていることを示している。世界最大の都市計画(Jin-Jin-Ji)世界最長の高速鉄道網、世界最大の電波望遠鏡、世界最大の原子力発電所、世界初の量子暗号通信衛星、LHCと肩を並べる世界最大級の円形加速器など、いつのまにか世界のイノベーション国家に恥じないハードウエアの成果には目を見張るものがあるのは事実だが、一方では発展の代償として経済格差の深刻さは無視できない。

 

より困難な次の5年

これまでのハードウエアの発展は資金と労働力を集中して成し遂げられたが、それに比べれば、国民の生活満足度を高めるソフトウエア面(福祉厚生)の取り組みは複雑で、利益相反がはるかに大きく問題解決が難しい。次の5年が持続性を維持できるのか、この5年が習体制にとっても、また中国式社会主義にとっても正念場となるだろう。