新技術で世界初の海上滑走路

12.08.2016

Photo: Original (taken by A)

 

羽田の歴史

羽田空港は地理的な制限を考慮しつつその時代の先端土木技術を投入しながら拡張を続けてきた。空港周辺では肥沃な干潟を利用した海苔養殖や漁業がおこなわれていたが、空港ができたことで水質が悪化、1962年に海苔養殖が出来なくなり、羽田漁業組合も漁業権を放棄した。1963年にターミナルビルが増築され、1964年にC滑走路と呼ばれている34R16Lが完成し、3本滑走路体制となったが、国際線離発着枠が戻ってきたことで手狭になり最新工法でD滑走路(上の写真)の拡張工事がなされた。

 

 

苦肉の策のハイブリッド工法

2010年に建設されたD滑走路という0523滑走路で4本体制となったが、この滑走路は新技術の賜物である。一見すれば、特に上級から眺めるとメガフロートのように見える。しかし実は桟橋と人口島のハイブリッド工法(ジャケット工法、正確にはJacket type pier)でできている。

 

埋め立てて滑走路を建設する場合、多摩川の河川の流れを遮って、水質環境が悪化することや水害を考慮し、現在の高床式の滑走路で、ジャケット工法という最新技術が取り入れられた。このジャケット工法によって桟橋のように水流をせき止めることなく、海に浮かぶ巨大な空母のように中空のメガフロートのような人口島をつくることができる日本独特の工法である。

 

実際、D滑走路を整備したことで、東京湾の水産資源・生態系の変化が出たことは報告されていない。ただし、ターミナルビルから離れているため、滑走路に出るまでに時間がかかることと、A~C滑走路より数10メートル高い位置に作られているためタキシーイングに燃料を余分に使うこと、他の滑走路と高度が異なることは着陸誘導の安全面で問題となる恐れもある。横からみると空母赤城の初期の甲板を思わせる構造は新鮮な驚きであるが、100年間の耐久がありメガフロートよりも建設が容易で日本の高度な土木建設技術を世界にアピールしている。実際、世界にもこれからメガフロートで滑走路をつくる計画が少なくないが先鞭をつけたといえるだろう。

 

 

 

Source:pa.ktr.mlit.go.jp

 

新工法では上の写真のように組み立てられたユニットを現場に運んでいきクレーンで降ろして設置する。拡張性に優れているが設置の精度と経年変化(地盤沈下)が技術課題である。工事は2007年から始まり完成は2010年であった。

 

今後の拡張の可能性

羽田空港にはさらに新たに滑走路を造る計画があり、候補としてはC滑走路沖にE滑走路をつくる案が有力視されている。京浜島、城南島では2500m以上の滑走路は作れないことから、C滑走路沖が最有力候補になっている。しかし東京湾の海底はかなり地形が入り組んでいて、大型船舶が通れる水深が確保できる航路は限られていることや、東京湾の水産資源が劇的に改善されてきているため、船舶の航路を脅かさず、水質を悪化させないなどの課題を解決しながら拡張していかなければならないので工事関係者には頭の痛い制限が多い。

 

 

空港のトレンドに変化

韓国の仁川国際空港などの巨大空港がアジアのハブ空港として機能すると期待されていた頃、成田や羽田空港はハブ空港として機能させるだけの拡張性に乏しかった。しかし大型機の大量輸送(に依存したハブ方式から、中型機による直交便方式に変わりつつある。そのためハブ空港の果たすべき役割も変化している。世界の大都市の専用空港が増えて、採算性の良い中型機による直行便が充実するにつれて次第にハブ空港の意義が薄れている。これにはオープンスカイと呼ばれる航空協定の自由化で、国際線の発着枠が拡大したことも影響している。

 

 

2020年のオリンピックでは東京の玄関口として、滑走路や交通機関の機能強化が求められるが、今までのように埋め立てて広げるという方法では羽田の立地を考えると限界に来ている。これから5番目のE滑走路を造るのであれば、拡張性を考えて設計を考えるべきであろう。成田空港にも滑走路を増設する計画があるようだが、拡張するにはかなりの制限がある。成田には高速道路網に近い利点を生かした貨物ハブ空港としての将来性は残されている。安全に離発着できる国際空港を一本化し将来の拡張性を考えた設計を考えるべき時期が来ている。