量子気体顕微鏡でハバード反強磁性体を観測

20.06.2017

Photo: news.harvard.edu

 

ハーバード大学の研究グループは新たに開発した量子気体顕微鏡で、低温原子の光格子が作るハバード反強磁性体の観測に成功した(Nature 545, 462 (2017))。強相関電子系での高温超伝導の理論解明に向けて大きな前進となることが期待されている。

 

モット絶縁体(強相関による絶縁体)にホールをドープすると高温超伝導となる。フェルミ-デイラック粒子の作る正方格子(ハバードモデル)はホールドープした銅酸化物などの高温超伝導の本質的な性質を持つと考えられている(下図a)。

 

最適ドープ組成(ホール濃度~0.15)における電子状態はハバードモデルで記述できると考えられているが、現実には2次元系でさえも多体問題を厳密に取り扱う困難さから、数値計算による高温超伝導の検証は報告されていない。

 

2次元系で高温超伝導を再現する数値計算が難しいため、研究グループは実験的に2次元フェルミ・ハバードモデルを作る研究に取り組んだ。技術的には極低温での密度表現をどうするかが問題であった。このためレーザーで光格子を作り、Li6原子を格子点にトラップした上で、さらに冷却し観測手法としてフェルミ顕微鏡(量子気体顕微鏡)(下図b)を開発した。

 

 

Credit: Nature

 

格子点(80個)をトンネルエネルギーの0.25倍のエネルギーを持つ極低温の原子(Li6)で満たすと、2次元系が反強磁性的な振る舞うことが観測され(上図c)、これを使うと2次元系のフェルミ・ハバードモデルを計算機に頼らず、調べることが可能になると期待されている。

 

研究グループは銅酸化物高温超伝導対と同じ0.15ホールドーピングまでは反強磁性なスピン配列を保つことを見出した。計算によりホールドープされたハバードモデルが超伝導となる数値計算は、超伝導転移温度が実験を再現できていない。(計算では超伝導転移温度が低いまたは超伝導にならない結果しか得られない。)

 

量子気体顕微鏡(下図)による極低温原子を使った格子で振る舞いを調べることで、高温超伝導機構の解明が進むものと期待されている。量子気体顕微鏡はこれまでYb+イオンなど極低温原子イオンの磁性の研究に使われていたが、ハバードモデル検証への応用はこの研究が世界初となる。

 

 

Credit: slideplayer