記憶の形成の新しいメカニズム

.09.2017

Photo: kurzweilai

 

これまでの記憶形成に関する研究結果に基づいて、記憶形成は学習によってニューラルネットワークが形成・強化されること(ヘブ学習則)によると考えられている。ハワード・ヒュージ医療研究所とユニバーシテイ・カレッジ・ロンドンの研究グループは記憶形成の新しいメカニズムを発表した(Bitner et al., Science 357, 1033 (2017))。 

 

ヘブ学習則によれば記憶形成は時間軸と関係性が深く、時間的に近接した行動とその結果の学習によって記憶が深まる。時間的に短い期間に繰り返すことによってニューラルネットワークの繋がりが強まるためである。

 

このメカニズムによればニューラルネットワークが記憶を形成するためには柔軟である必要がある。またこの「メカニズムではシナプス長期増強(注1)として知られるように一過性の高頻度刺激で記憶が強化される。集中的な反復練習で上達する運動競技と似ている。学習を継続して行う教育システムもそのためである。

 

(注1)側頭葉内側部の海馬での入力部に加えられた一過性の高頻度刺激で、シナプス電位が増大し,長期間(数時間から数日)にわたって持続する現象(下図)。

 

 

Credit: bsd.neuroin

 

研究グループはこれとは長い時間軸で記憶が形成される別のメカニズム(BTSP, behavioral time scale synaptic plasticity)が存在すると考えている。このメカニズムでは記憶は一連の連続した事象として繋がって再生される。BTSPでは長期記憶形成の際に、接続されたニューロン同士の相関が必要ない。

 

研究グループはBTSPモデルとマウス実験を比較して、BTSPの存在を検証した。シナプス活動に達しないカルシウム(Ca2+の)プラトー電位で、長い時間大きく増強されることから、海馬CA1領域の一部が繰り返し刺激が必要なヘブ学習則と異なり一回の刺激で記憶が形成される新しいメカニズムが存在することを示した。

 

 

Credit: Science