Photo: advancedtransit
マスダールはペルシャ湾に面した砂漠の中の人工のオアシスのような未来型都市である。アブダビの30km東に位置するマスダールが、これまでのエネルギー消費型都市と異なるのは環境保護を念頭に置いたエコ都市として計画されていることである。
再生可能エネルギー(太陽光や風力)だけを使い、温室効果ガスを排出せず、リサイクルで廃棄物ゼロの都会となる。高層ビル群には太陽光発電で電力が供給され中東の強い直射日光を遮断した快適な空調空間を市民は行き交う。またマスダールへの車の乗り入れは禁止となるため、スマート新交通システム(Personal Rapid Transit, PRT)が公共交通機関となる。
マスダールの公共交通機関PRT
マスダールPRTは2010年11月から現在までに2駅間を1日当たり18時間、試験的に運行し、200万人の乗客を無事故(稼働率99.6%、故障に対する信頼性99.9%)で輸送した実績を持つ。マスダールは本格的なPRT導入を目指し路線を拡張し自動運転を行う次の段階に移行する。
拡張計画の車両製造と管理システムは国際コンペ(注1)で行われる。PRTに要求されれている条件は①ゼロエミッション、②自動運転、③通行人と他の車両との共存運転、④路線と駅の拡張性、⑤他国の環境に対応可能、⑥マスダール交通管理システムの管理下での運用、である。
(注1)最近の大型インフラ・交通システムの整備では国際コンペが通例となっている。例えばハイパーループの車両設計は国際コンペで各国の設計案が審査され、上位入賞チームは試験車両の制作が認められ、最終案はテストコースを使って実験して決められる。すでにマスダールPRTの国際コンペは締め切られているが、現在の車両を製造する企業のアドバンテージは大きい。
Credit: aasarchitecture
PRTは自動運転だがあらかじめ決められた路線の仮想的な軌道上を走るEVのようなものである。現PRTの運用は新交通システムに経験のあるオランダの2getthereが担当している。同社はマスダールの2-4名用のPRTの他に、ロッテルダムのリビウム・プロジェクト(注2)のITS(高度道路交通システム)の車両(GRT)を担当する。PRT/GRTはEVとして凡庸な性能であるが走行時の位置制御精度は数cmと極めて高い。
(注2)オランダはスキポール空港の駐車場との間に自動運転シャトルを1997年12月に整備している。オランダの自動運転交通システム技術は高く、デルフト大学チームはハイパーループの国際コンペでMITについで第2位につけている。
最大速度が40km/hのマスダールPRTは25km/hで運用されている。最大速度で運用しても一周で13秒しか差がないためである。EVとして見れば一回の充電での走行距離は60kmで目立った性能ではない。それでも2.5分間隔で運転されるPRTは都市部の交通機関として十分であることはこれまでの実績が証明している。インフラが老朽化した先進国の大都市で、路線バスをPRT/GRTで置き換えるべき時が来ている。
すでに自動運転新交通システムの試験運用が以下の国・地域で始まっている。
スイス シオン市
ギリシャ CityMobil2
オランダ リビウムGRT
フィンランド EZ-10
スイス ポスト・バス
フランス ボルドー Arma
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