体内時計と老化の関係が明らかに

11.08.2017

Photo credit: Features of Your Biological Clock

 

カリフォルニア大学の研究グループの老化が体内時計が関わる代謝のメカニズムに与える効果を調べた研究で、細胞の代謝と関わりが深い概日リズムすなわち体内時計が、生理的な老化に伴って変化することがわかった。また研究グループは低カロリーダイエットが正常なエネルギー代謝の維持と老化防止に役立つことを明らかした(Sato et al., Cell, 170, 664 (2017))。

 

体内時計は老化につながる細胞内のエネルギー代謝を支配している。研究グループは生後8カ月と18カ月のマウスの(栄養からエネルギーを細胞に供給する機能を持つ)肝臓細胞を採取して詳しく調べた結果、24時間サイクル(概日リズム)が代謝のメカニズムを老化したマウスでも機能しているが、体内時計の大きな変化があることを見つけた。

 

体内時計メカニズムは若年のマウスでは活発に機能しているが、老齢化により正常な機能が失われる。しかし老齢化したマウスでも30%低カロリーの食事を与えられたマウスではほとんど変化が見られなかった。カロリー制限が体内時計の若返りに効果があることは、老化を防ぐことにつながる可能性がある。

 

この論文と同じCell誌に掲載された他の研究グループによる研究でも表皮になる幹細胞中の体内時計にも同じ結果が確認されている。低カロリー食事が体内時計の衰えからくる老化を防止することが、複数の研究論文で確認されたことになる。幹細胞の体内時計を維持することで若い状態を保つことができるのであれば、老化防止も現実的と言えるかもしれない。

 

 

Credit: Celll

 

鍵となる蛋白質SIRT1

体内時計は蛋白質(SIRT1)(注1)のアセチル化(注2)と肝臓細胞の代謝メカニズム(上図)を介して老化のメカニズム直接関連づけられた。研究グループは今後、代謝が幹細胞の老化プロセスに影響する理由を解明したいとしている。

 

(注1)長寿遺伝子として知られる。カロリー制限のもとでは代謝速度が低下し加齢速度も低下する。SIRT1からSIRT7までのSIRTUIN(長寿遺伝子)がある。その一つであるSIRT1は上図のNAD+依存性蛋白脱アセチル化酵素として働き、生体内の他の蛋白質と相互作用し生理機能を制御する。その中に細胞老化、細胞死滅(アポトーシス)などの調節機能が含まれる。

 

(注2)蛋白質アミノ酸の翻訳後就職の一つ。蛋白質の反応の対象を広げ促進させる。アシル化、アセチル化遺伝子発現に重要。

 

低カロリー食事が寿命を延ばすことはこれまでに報告されていたが、今回の研究でカロリー制限が老化のメカニズムに関係する体内時計に影響することが初めて明らかにされた。将来はダイエット療法による体内時計の制御で老化を食い止めることが可能になるかもしれない。

 

 

 中国では古くから歳をとると「腹八分目」が健康の秘訣だとされ、日本でも同様の言い伝えがある。この研究でいう30%食事制限が「腹八分目」の科学的根拠なのかもしれない。