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6月に米ファンドのベイン・キャピタルは日本政策投資銀行、産業革新機構と日米連合の枠組み(コンソーシアム)をつくり、東芝の半導体メモリー事業の買収に乗り出下が交渉は難航しWD陣営との交渉を経て、再び東芝との交渉に臨。ベイン・キャピタルは東芝側にアップル、DELLを含む広範囲の投資企業リストを提示して、連携戦略の強化をはかり9月いっぱいで決着をつけるとしている。
買収交渉が決着しない理由
これまで東芝買収先として競争相手との交渉でアップル社の名前は非公式にあがっていたが、アップル社の参加が公式に確認されたのは今回が初めてとなる。東芝側はベイン・キャピタルを筆頭とする日米連合コンソーシアムとの交渉期限が切れたとして、8月24日、WDを筆頭に日米の投資会社と大手銀行が支援するWDコンソーシアムと総額1.9兆円となる買収交渉を開始した。
しかし東芝と訴訟を起こしているWDとの交渉がまとまらずWD陣営との交渉も幕引きとなった。先週になって東芝側はベイン・キャピタルが主導する日米連合コンソーシアムと買収交渉を再開した。競争相手にはWD陣営の他に台湾の鴻海精密工業陣営があるが、(表向きには)東芝側は交渉先に加える体制に変更はないとしている。
これまでの買収交渉が決着しない最大の理由は東芝との訴訟問題に発展したWD-東芝との工場共有を含む密接な提携関係の維持を希望するWDと独立性を強めたいベイン・キャピタル側との利益相反にあった。今回の提携企業にPC世界市場で3位のDELLと4位のアップル社のPCメーカー参入で交渉締結へ向かうという希望的観測もあるが、WDとの係争が足を引っ張る。
東芝の切り札3Dメモリ
PC市場は冷え込んでいるが、新たな省電力で有利なNAND型フラッシュメモリの市場として携帯端末需要が復活の兆しを見せており、新しくブレードサーバー需要も期待できる。サムソン(35%)、東芝-サンデイスク連合(22%と15%)、で全体の70%を占めるNANDフラッシュメモリ市場は供給不足の状況が続いている。従来型(2D)メモリについては安定した生産能力が必要とされる一方で、3Dメモリは新たな需要を生む可能性が高い。
シリコンの物性限界に達すれば微細化を進めることはできない。そこで3Dメモリで密度を高め、見かけ上ムーアの法則が維持されたように見せるため、メーカーは必至である。Samsungはその中でも簡易的な3Dメモリの市販化にこぎつけたが、東芝はより発展性のある3Dメモリの作成技術を目指している。市場投入こそサムソンが先行したが、東芝の3Dメモリ(下図)は拡張性が高く、サムソンが行き詰れば巻き返しも可能である。サムソンの3Dメモリは簡便型で市場が展開すると失速する可能性が高い。実際、中国半導体メーカーもそれを狙って機会を伺っている。
安定した従来型メモリ製造ラインに加え独自の3Dメモリ技術など高い東芝半導体の技術力を含めれば1.9兆円は「安い買い物」と言えるかもしれない。交渉決着は焦点はWDとの係争ソフトランデイングに絞られてきた。WHとの国際契約の失策が命取りになった東芝にとって半導体事業売却は、復活への一里塚となる。今度こそ慎重な契約条項の吟味が必要である。ベイン・キャピタル連合には2014年に技術流出で提訴した相手企業、ハイニックスが含まれており、技術流出を食い止める条項が必要になるからだ。