非変実的な火星移住計画に挑戦する理由

03.08.2018

Photo: openborders

 

スペースXとテスラ社のCEOイーロン・マスク氏は、火星に大量移住するビジョンを持っている。地球環境の悪化や人口問題からすれば、これは非常に野心的な考えだが、技術的にはいくつかの点で困難であるためこれまで真剣に議論されることはなくテラフォーミングはSFの世界の話だった。

 

今年2月にスペースXは、ファルコン・ヘビーロケットで火星の周回軌道にテスラEVを打ち上げることで、火星移住ミッションへの一歩を踏み出した。一方、火星の地下に塩水湖が発見され火星に生命体が存在する可能性が出てきた。湖は南極極冠の1.5km下にあり、直径は少なくとも20kmになる。

 

火星に生命体が38~40億年前にに存在した可能性は、これまでの火星ミッションで明らかになっている。河川や湖沼の水が合理的な酸性度で表面に存在し、生命が進化する環境が存在していたと考えられている。それなら何とか環境を整得られないかと考えるのも不思議ではない。特にマスク氏のように住みにくい自然を力ずくで変えられると信じるのは米国に多い。

 

しかし、火星は38億年前、宇宙からの厳しい放射線から生命を守った磁場を失った。火星磁場の喪失で放射線環境が悪化し、大気もなくなったことで、かつての生命体は絶滅したことは想像に難くない。その氏の惑星を復活させようというのは、それほど簡単な話ではない。(火星移住を最終章とするのであれば)合理的なアプローチでやれると豪語するマスク氏は残念ながら的外れだ。

 

もちろん火星環境をより地球に近いものにするには、温度と圧力を上げるために惑星に存在することが明らかとなった大量の氷の中に閉じ込められた温室効果ガスを放出させれば可能だとする意見もある(下図に示すように軽い気体ほど大気に留まらない。重力の弱い火星では致命的な問題となる。)。マスク氏も、二酸化炭素を放出するために熱核爆弾の使用を示唆している。しかし、新しい研究によれば火星は潜在的な温室効果ガスの大部分を失って以降、残りの大気を利用可能な技術で大気に変える可能性はない。熱核爆弾を使ったところで希薄な大気あるいは地下核爆発では熱エネルギー伝導効率が悪い。

 

 

最近の宇宙ミッションから火星の二酸化炭素と水資産データから、氷の中に閉じ込められた温室効果ガスでは不十分であることが示されている(Jakosky and Edwards, Nature Astronomy, 2, 634, 2018)。惑星の中ではもっと蓄積量が多きいものが見つかるかもしれないが、それを抽出することは今日の技術をはるかに超えている。また、磁場の不足のために大気は失われる一方なので、大気を作り出すことは現実的とは言えないため、放射線防御と気密性を確保する密閉住居中の生活を強いられる。

 

火星以外に地球に近い惑星で移住先候補となるのは太陽系では、火星、土星の衛星エンケラドスとタイタン、木星の月イウロパになる。火星移住計画の真のミッションは、宇宙探査の高度化と長距離移動技術と基地化にあるならば、将来へのステップとして価値あるミッションと言えるだろう。そのまま移住することは現実的でなくてもステップを踏むことで、次が可能になると考えるべきだろう。科学技術は連鎖的に発展するから火星以降の移住を考えるなら、火星ミッションは一里塚となることは確かなのである。テラフォーミングに一歩を踏み出すための火星ミッションと考えれば、合理的だが火星に住み着くための環境づくりには未来はない。

 

 

 

Credit: Lance Hayashida/Caltech Office of Strategic Communications