メルケル体制の終焉 Part5

19.06.2018

Photo: latimes

 

 メルケル首相とゼーホーファー内相との移民政策を巡る対立は、ドイツの深刻な政治危機を示唆している。6月末までにEU周辺国との移民対策に合意を得られなければ、メルケル連立政権は崩壊、メルケル体制の終焉を迎えることになるからである。

 

 今回の政治危機の背景にはドイツのバイエルン州の事情が大きく関わっている。人口1,290万人で、ドイツ最大の州であるバイエルン州は今年の10月14日に州議会選挙が予定されている。メルケル政権の連立パートナーである、ゼーホーファー内相が率いるキリスト教社会同盟(CSU)の地盤はバイエルン州で、政権入りする前はバイエルン州首相を務めた。

 

 ドイツの16州のなかでも最も保守的で、CSUの地盤であるバイエルン州では、2015年以来ドイツの移民政策に批判が高まっていた。当然、メルケル首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)と連立を組むCSUも批判を受け、2017年9月に実施された議会総選挙では CDU, CSUともに支持率を下げた。バイエルン州ではCDU/CSUへの支持率は2013年の49.3%から 38.8%へと大きく下げ、代わりに反EU・反移民を掲げる「ドイツのための選択肢」(AfD)が4.2% から12.4%と大きく躍進した。

 

 これまで、バイエルン州議会でも過半数を維持してきたCSUも6月7日に行われた最新の世論調査では、初めて過半数を割り込んで41.1%、一方AfDは13.5%と支持率を伸ばしている。

  

 

 当初から移民政策を巡りメルケル首相とゼーホーファー内相は対立していたが、CSUへの支持率低下が続くなか、10月の選挙を前に危機感が高まったことでメルケル首相との対立姿勢が強まった。バイエルン州は移民のドイツ入国の主要入国地点であることから、移民政策は深刻な問題である。タームズ紙によると、ドイツは毎月11,000人の移民を受け入れており、2015年からは100万人以上の移民を受け入れている。

 

 ゼーホーファー内相は、他のEU諸国で登録されている移民や身分証明証を持たない、他のEU諸国から入国を拒否された移民のドイツ国境での即時送還を求めた。メルケル首相の同意がなくても「内相権限で実行する」と警告を発していた。連立崩壊を避けるため、メルケル首相は28、29日に開かれるEU首脳会議で周辺国(イタリア、スペイン、ギリシャ)との移民対策の合意を目指すとしている。

 

 最新の世論調査では、62%は他のEU諸国で登録されている移民や身分証明証を持たず他の EU諸国で登録されていない移民をドイツ国境で入国を拒否することに賛成意見となった。さらに、86%は入国を拒否された移民の早急な強制送還が望ましいとゼーホーファー内相のより厳しい移民政策を支持している。

 

追い詰められたメルケル

 メルケル首相が合意に失敗すれば、ゼーホーファー内相はバイエルン州の警察当局に移民の入国拒否を命令する恐れがある。実行された場合、ゼーホーファー内相は辞職に追い込まれ、CDU・CSUの連立は崩壊する。メルケル首相は弱体化した少数与党政権として続けるか、再選挙の選択に追い込まれる。どの選択肢を選んでも、いよいよメルケル体制が終焉を迎えることになる。

 

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