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北朝鮮の核実験は外交の意外な展開で(先行きは不透明だが)、少なくとも緊張緩和の可能性が見えて来た一方で、イランの核開発問題に再び暗雲が立ち込めて来た。イランは米国と欧州の同盟国が5月に予定されている原子力開発協定の締結を前に、トランプ政権が協定離脱を決定する可能性が出て来たことを受けて、核開発開始を警告した。
イラン原子力機構は4月8日に原子力協定で廃棄が予定されているウラン濃縮事業の再開の準備が整っていることを明らかにした。核兵器開発にはウラン濃縮とプルトニウム製造のふたつの道があるが、前者は原子炉が不要であるため秘密裏に核兵器を製造することができる。北朝鮮もプルトニウム製造原子炉を廃棄してウラン濃縮による核兵器製造に切り替えている。
イラン原子力開発担当のアリ・アクバル・サレヒ氏は、イランは核兵器用の高濃度ウランの限界濃度20%に4日間で到達可能としている。トランプ政権は、欧州連合(EU)加盟国に、イランで進行中の核開発研と弾道ミサイル計画を制限する新たな枠組みに同意するよう促している。兵器級ウラン(高濃縮)はウラン235濃度が20%以上のもので、商用原子炉では低濃度(5%)ウランが用いられるため、20%以上の高濃縮ウランは核兵器利用と見なされる。
イランの発表は米原子力協定に違反したとして圧力をかけ続ける国と欧州同盟国への警告となる。国営メデイア(Fars News Agency)もイランの核兵器開発が加速される可能性を伝えた。技術的な裏付けとしてウランの濃縮能力を評価する分離作業量(SWU)が100,000(KgSWU)以上の能力を持つことができるとしている。標準的な軽水炉を運転するための低濃度ウラン1年分を濃縮できるSWUは120,000KgSWUが必要とされる。例えば低濃度ウラン(3.5%)から兵器級高濃度ウラン(90%)を製造するのには14,000kg必要だが20%ウランなら116kgで短期間に核兵器を製造することができる。
一方イランの原子力開発プログラムにはプルトニウム製造が可能なアラク重水炉施設の改修も含まれる。米国の核兵器製造の専門家とワシントンのシンクタンク(Foundation for Defense of Democracies)はイランの核開発の脅威が高まっていることで、トランプ政権のイランとの核交渉が暗礁に乗り上げたことを警告した。包括的共同行動計画(JCPOA)と呼ばれるこの核交渉はイランの一時的な核兵器開発の凍結が実現するのみで、イランが核兵器開発を再開すれば米国へ向けられた数10発の核ミサイル配備への道が残されたままだとしている。
オバマ政権時にイランには核開発凍結の見返りとして数10億ドルの経済援助を行ったが、それは恒久的なイランの核兵器廃棄にならなかったことが明らかになった。米国にとってシリアからの撤兵を目前にして、シリア情勢の悪化に加えて今回のイラン核開発再開の警告は、(予想されたとはいえ)試練となる。
なお北朝鮮がイランに核開発研究者を送り込んでいる。北朝鮮核問題はイラン核開発と関係が深い。国境を越えた核開発ネットワークを根絶しない限り核兵器製造への道を閉ざすことはできない。
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