ロシアが中距離ジェット旅客機市場に参入

12.06.2016

Photo: AVIATION DOCTOR

 

三菱がリージョナルジェット(MRJ)の旅客数にこだわったのは理由がある。ボーイングとエアバスの競合とならないためだ。中国とロシアは国内需要を睨んであえて開発に踏み切った。しかし航空機産業にとって、たとえライセンス生産でも自国内の生産に携われなければ、存続にかかわる。最近の傾向として旅客機の製作には世界中の部品メーカーが部材を供給するので、独自の開発・生産のイメージは過去のものとなった。

 

 

ロシアは競争が激しい中距離ジェット旅客機の市場向けに双発ジェットMC-21を完成した。MC-21には3つの派生機種があるが、今回発表されたのはMC-21-200130-160座席、MC-21-300160-211座席となる。シベリアにある製造メーカー(イルクート社)工場でのロールアウトにはメドベージェフ大統領も駆けつけてロシアがジェット旅客機市場に本格的に参入したことを印象付けた。MC-21は現在、試験飛行が行われており、2017年には生産が開始される。

 

 

ロシアにとって強力なライバルたちとともに、競争の激しい双発中距離ジェット旅客機市場に居残ることは、列強のひとつとしてのステータスシンボルでもり、開発コストには代えられないメリットがあるという。一足先に中国はCOMAC C919と呼ぶ乗客数最大190名の双発ジェットを2015112日にロールアウトしている。

 

MC-21C919はボーイング737MAX及びエアバスA320neoシリーズと真っ向から競合する。国内需要に対応するだけであれば、これら2機種を入札で競合させればコスト的にはメリットが大きい。それでもロシア、中国がコストより自主開発を選んだ理由は何なのだろうか。

 

 

イルクート社は旅客機製造ではあまり知られていないが、MC-21の開発が始まったのは2008年で(当時はMS-21と呼ばれていた)、2009年にはイルクート社とユナイテッド・テクノロジーズの子会社と23億ドルの供給契約が交わされた。2009年にはジェットエンジンを米国プラット・アンド・ホイットニー社のPW1000Gという燃費の良いギヤードターボファンエンジンとすることが決まった。

 

旅客機の構成要素として開発コストが大きいものに、ジェットエンジン、アヴィオニクスがあるが、後者を米国ロックウエル系のロシア企業とすることで開発コストは大幅に削減できた。さらに主要な部品を欧州メーカーから調達することによって、これらの開発を支えてきたエアバス社の技術が流入した。そのため機体の30-40%が海外企業の部材となる。

 

 

Photo: EPA

 

ちょうどフォックスコンが世界中のメーカーから先端電子部品を調達して、アイフォーンの組み立てを行うようなものである。機体の部品にエアバス、ボーイングの技術が流れたことにより、当然ライバル機より性能が優れた機体が出来上がる。

 

MC-21の燃費は15%のアドバンテージを持ち、年間300万ドルの節約が可能となることが強みである。ちょうどMRJが同じような宣伝で海外市場に食い込もうとしているのと同じビジネスモデルである。結局、ロシアの目指した列強に食い込む政治的な理由ではなく、部材を海外から調達して短期間でライバル機に差をつけて低燃費、運行効率の良さで、売り込み市場に割り込むということとなった。

 

 

EV開発でも意外に経験の少ないメーカーが主要な部品であるバッテリーを日本のメーカーから調達し、成功して市場を開発している。技術が拡散した結果、一番コストパフォーマンスの良い部品を調達して組み立てる方が、売れる製品になる、という電子機器のコモデテイ化がジェット旅客機にもやってきたのである。