NASA火星ミッションの思惑

10.10.2015

Photo: MARS ARTISTS COMMUNITY


NASAが月に人類を送ってから惑星探査とISSが中心になり、人類共通のミッションとして火星探査が活発化している。火星探査は無人機から始まり現在は有人探査が計画されている。呼応するかのように火星に存在する水(氷)の観測結果の発表や火星ミッションを話題にした映画「The Martian」がつくられるなど、話題にことかかない。


火星ミッションにこだわるNASA

NASAの火星探査は1976年に打ち上げたバイキング1号から始まる。地表面の調査は1997年にMars Passfinderが着陸してローバーを送り込んで以来、2004年、2008年、2014年に宇宙船を着陸させて火星地表の調査を行っている。


なお火星着陸の難しさは米ソ両国のミッションの失敗率の高さから容易にソ連が1973年から挑戦しているが、打ち上げ失敗や1964年のゾンド、1962年から1988年のマルス計画の7機、1988年から2011年のフォボス計画3機は全て失敗に終わっている。米国にしても成功の裏にマリナー計画2機の打ち上げ時の失敗や1992年のMars Observerの失敗がある。


NASAに蓄えられた火星表面と大気に関する多くの情報には氷の存在を裏付けるものがあり、水を分解して酸素をつくれば少なくとも人工大気と水を備えた空間での長期生活の可能性もでてくる。NASA2030年代に火星有人飛行を目指している。開発中のOrion宇宙船は人類を火星に着陸させるためのものとされるが、惑星間移動も考えた設計になっっている。



Source: OSU

 

火星への着陸を目指すNASAの狙い

一方、火星大気の影響で着陸方式は月へのミッションとは大幅に異なる(上の図)。このための開発研究プロジェクトがLDSDである(関連記事参照)。また2014年には大気分析のために無人探査機Mavenが打ち上げから10カ月後に火星周回軌道に入り大気の精密分析を行った。一方、NASAはハワイで宇宙飛行士の火星長期滞在に関する実験を行うことで、着々と火星一番乗りの計画を進めている。

 

NASAは火星ミッションに関する報告書をこのほどまとめたが長期間の火星滞在で必要になる食料の自給体制や結構管理など具体的なインフラ構築の推進を提案している。NASAが力をいれる理由は火星だけではなく、将来の惑星間移住の先行開発研究と考えているからであるが、現実性を考察すればするほど実現度に疑問符がつく。映画「インターステラー」のようにワープでも使わない限り、人類が移住可能な惑星をみつけても移動に長時間を要するため、エクソダスのように大勢が一度に移住できるわけではない。

 


Photo: slashdot

 

惑星移住計画

しかし火星を基地として同様な拠点をみつけては移住し、世代を重ねることによりいつかは地球以外の安住の地に人類が住む時が来ないともいいきれない。人類は他の惑星に高度な文明を持つ生命が存在する可能性を探求してきた。いつか地球にそのような生命体が訪れることを期待と恐れが入り混じった複雑な思いで過ごしてきたが、気がついてみれば他の惑星に進出し、植民地化して生きながらえようとするたくましい生命体は自分たち自身だった。

 

 

NASAが火星ミッションにこだわるのは宇宙産業に目標設定が重要であるためという見方もできる。火星移住ともなればインフラ整備に必要な産業育成を考慮すると米国経済の立て直し、雇用安定化という意味も大きい。火星移住による見返りは大きいとは思えないが、NASA予算のモチベーションとしては十分だろう。

 

月へのミッションでは数々のハイテク材料や技術が生まれたが、火星ミッションでも科学技術へのフイードバックもあることも確かだ。しかし当面はOrion開発を担当するロッキード・マーチン社が潤うことになる。やはり政府と特定企業の関係は火星ミッションまで続くようだ。オバマ政権のもとで大幅な軍事予算削減のもとでOrionはロッキード・マーチン社にとって救いの手でもある。