火星探査の真の目的—惑星間移住

Jan. 25, 2015

 

 

 インドの超低予算火星探査機についてはすでにかいた。計測系を簡素化し軽量化したことが低コスト化の鍵であった。一方、米国NASAが官学民の総力を結集した火星探査機フェニックスは何を狙っているのだろうか。


現実化する火星移住

 映画「インターステラー」では生命環境の危機を迎えた地球から新しい惑星への移住が描かれている。実際には地球から現実的な移動手段(宇宙船)で移動できる距離にある惑星は限られる。その中で火星は太陽系でも地球に近い最も身近な惑星で地球の内側で公転している。そのため火星の1日(sol)の長さ地球より40分長いだけである。火星の表面積は地球の28.4%でサイズ的にはやや小さいが地球の陸地に匹敵する面積であることも移住先として手頃ではある。


 

火星の環境

 最も関心のある環境については、火星はがっかりするレベルでだが、地球の環境が劣悪になればそうもいっていられない。住めれば都なのだ。1日の長さはほぼ地球並みとはいっても火星の1年は地球の1.88倍となる。季節の長さが長くなることより重要なのは大気と放射線である。


 火星の大気は薄くまた主成分は二酸化炭素で呼吸はできないし、第一気圧が低すぎて、宇宙空間並みに宇宙服は必要である。気温は低く平均-43Cであるが冬季の南極を考えれば、居住空間を快適に保てれば、外の活動が不可能ともいえない。問題は磁気圏が弱いため太陽風が防ぎきれないことである。火星周回軌道上の放射線強度は0.8Gy/年となり、ISSの2.5倍〜22mrad/日となる。


 

火星探査でわかったこと

 火星探査はこれまでNASA主導でマーズオデッセイを皮切りに2機のローバーミッションで火星表面の土壌分析が進められてきた。その結果、北極圏にのみ集中するとみられていた氷は低緯度にも地中に存在することがわかり、もうひとつの人類生存に欠かせない水が豊富に得られることがわかると、移住計画が急に現実味を帯びてきた。


 火星探査機フェニックスはNASAが大学にプロジェクトを据えて、取り組んだ大型プロジェクトだが、火星探査の真の狙いはもちろん、移住計画の先陣を切ることである。フェニックス計画ではアリゾナ州立大学(注)を拠点とし、ロッキードマーテイン社と共同で研究開発が行われた。その理由はNSAが予算不足で同社に委託していた火星探査機の機体や計測システムが残存しており、関わっていた車内の技術者を取り込むことにより、官から学民への委託で低コスト化が期待できるからである。実際にフェニックス計画ではロッキード社が完成していても、予算打ち切りで打ち上げられなかった着陸船が再利用された。


 打ち上げはコロラド州のロッキード社で組み立てられた着陸船を空軍の輸送機でケープカナベラルに搬送し、空軍のデルタIIロケットで打ち上げられた。フェニックスの最大の特徴はシャベルとカメラ付きのロボットアームで、着陸後、2.5m以内の土壌を採取し、計測システムで分析し地球に送信する。


 計測システムの中心となるのは土壌分析に光学顕微鏡、AFM、熱伝導度、電気伝導度プローブと、大気分析用の質量分析機である。そのほかに地表を着陸後にパノラマ撮影するカメラや降下中の地表観測用カメラ、着陸してから気象状況を観測する機材を備えている。


 

 

 フェニックッスは2007年8月4日にケープカナベラルから打ち上げられ2008年5月25日に火星北極地域に着陸した。その後、3カ月に渡って表面を観測した結果、地表直下に氷を発見し、従来の定説がくつがえった。なお火星には募って登録された25万人の氏名がDVDで届けられたという。この25万人の中から最初の移住希望者が生まれるのだろうか。


 オランダにある火星移住支援団体Mars Oneは2023年から火星に移住を開始する計画で第一次移住候補者は希望者20万人から、1058名が選出されている。そのための訓練は8年に及び、必要な物資は2016年から送り込まれるという。宇宙ステーションより2.5倍強い放射線は建物の遮蔽を厚くすればよく、宇宙ステーションを巨大化した映画「エリジウム」に住居を移せるのは限られた人たちだろうが、移住計画は片道で永住が条件だという。