最新兵器で交渉復帰をイランに迫るアメリカ

Jul. 1, 2015

Photo: The AVIATIONIST 


暗礁に乗り上げた核兵器交渉

 オバマ大統領の対イラン核兵器交渉は暗礁に乗り上げつつある。交渉期限6月30日の1週間前にイラン首脳は交渉再開の条件として、制裁の撤廃を求めた。ケリー国防長官のアメリカも交渉の席から脱退するという警告に対する、イラン側の実質的な挑戦である。


 アメリカは過去3回にわたってB-2ステルス爆撃機をミズーリ州からニューメキシコ州ホワイトサンズに移動し、世界最大級(15トン)の最新型バンカーバスター(MOP)(注1)であるGBU-57(上の写真)を装備して攻撃演習を行った。


 この爆弾は高高度から落とされると、超音速で滑空し建物の奥深く侵入して6,000ポンドの強力な爆発で周囲を破壊する。この兵器の使用がアメリカがイランに突きつける交渉決裂の代償となるかもしれない。


(注1)MOP (Massive Ordnance Penetrator)と呼ばれるバンカーバスターの最新型GBU-57。もともとは対ロシア、イラク、北朝鮮用のものであったが、対イラン用、岩山の奥深くにあるテヘラン郊外のウラン濃縮工場(Fordow)を想定して、最適化されたもの(下の図)。



Photo: LEEHAM News and Comments 

 

 

 ホワイトサンズの爆撃演習では、Fordowを再現する標的に対して模擬攻撃が行われた。オバマのいう核開発を断念させる「全ての選択肢」のひとつが、MOPである。

 

 国防省筋は軍事的解決は交渉が決裂したときの最終的なものとしているが、一撃でウラン濃縮工場を壊滅できるハイテク兵器MOPの威力を誇示することによってイランを交渉の席に戻るようにすることが当面の狙いなのは明らかである。

 

 

進化するバンカーバスター

 イギリス空軍が第二次世界大戦中にドイツに対して使用した、”Earthquake”、以後、”Grand Slam”、”Tallboy”といったバンカーバスターが開発されたが、冷戦中はICBMによる核爆弾が敵地を壊滅させる有効な兵器であった。下の図に示される弾頭の侵入距離がMOP (GBU-57)では飛躍的に向上している。

 

Photo: Defense Industry Daily 

 

 1991年の湾岸戦争でフセインが地下壕ネットワークを使ったが、そのときにドイツの技術者が建設した特殊な地下壕は核爆弾でも破壊できないと豪語したという。さらにビンラーデインの追撃で地下壕がB-52の絨毯爆撃でも破壊できないことがわかると、国防総省は本格的にバンカーバスターの開発に乗り出した。というのも中国と北朝鮮にある攻撃対象の地下壕は10,000箇所に及ぶからである。

 

 2002年の8月にNatanzにウラン濃縮工場の存在が明らかになった時点ではNatanzが平地であるため、通常爆弾で破壊できるとされた。しかし2009年に存在が確認されたFordowは小規模ながら地下壕に守られた施設であることがわかると、特別な開発組織(注2)をつくりバンカーバスター開発に拍車がかかった。

 


(注2)UFAC (Underground Facilities Analysis Center)、DIA (Defense Intelligence Agency)傘下の極秘組織。


 

Photo: Mail Online


 

MOPを支えるIT

 地下壕の調査には音波探査、レーザー振動計、重力計を装備した特殊なドローンなどハイテク機器が使われる。そのほかに衛星画像、工場廃水、排気などの情報も加えて総合的に地下壕の位置を割り出す。UFAC職員はデータをもとに地下壕の詳細と破壊に必要な兵器を分析して国防省の軍事データベースに送る。

 

 GBU-57はボーイング社が開発したGBU-28を6倍の重量。地下壕に達するまで信管を保護する機構、GPSによる精密誘導システムなどの改良を受け、2012年までに20個が配備されている。

 

 交渉が最終的に決裂した場合、査察は中止となり、ケリー長官はワシントンに戻る。オバマはイランに交渉復帰を呼びかけるだろうが、イランに交渉を継続する意思がない場合、核兵器開発はさらに加速するとみられる。

 

MOPの使用はあるか

 オバマの在任期間中にMOP使用を認めるとは考えにくいが、次期大統領のもと新政権ではその限りではない。しかしながら(実戦に使用されなくても)MOPはイランが交渉の場に復帰するための切り札になるのかもしれない。さらにMOPが北朝鮮に与える影響力も計算しているに違いない。ICBMを打ち合う全面戦争の可能性が低くなったが、ピンポイントで狙った地下壕を壊滅できることで、拡散した核兵器の新たな抑止力となるのかもしれない。