スターバックスの未来の責務

Mar. 2, 2015

 米スターバックスは、日本で焙煎所を併設した超大型のフラッグシップ店舗を設置する方針を明らかにした。現在国内に約1100ある店舗も増設を加速する強気の構えだ。60カ国に14万以上の社員を持ち年間100億ドルを越える売り上げで、グローバル企業の代表格となったスターバックスは最後のアメリカンドリームなのだろうか。


 スターバックスの原点はシアトルの焙煎マイナーであった。創業者は「スペシヤルテイ珈琲(注1)」の店舗ドリンク販売というアイデアで巨大企業に成長させた。シアトル流の珈琲文化はアメリカの基準(注2)を変えやがて追随する世界各国の若者世代に浸透していった。スターバックスのビジネスモデルについての書籍が多いのでここでは詳細は省き、特徴である独特な豆の仕入れについて考察する。


(注1)焙煎メジャーが買い付ける豆でつくる「レギュラー珈琲」に対して栽培管理、収穫、生産処理、選別、保管、輸送などにこだわり、品質の高い選別された珈琲豆を用いた高品位の珈琲。各国にSpecialty Coffee Association (SCA)という協会があり、豆の品質やバリスタ、焙煎者などの認定を行なっている。


(注2)かつて全米のレストランで提供される(アメリカン)珈琲は不味いものの代名詞で、ウエイトレスの"More Coffee?"の笑顔だけが救いだった。



 

 世界で生産されるコーヒー豆の大部分は先物取引市場で売買される相場商品である。一方、スターバックスの珈琲豆の仕入れは「スペシャルテイ珈琲」特有の、先物市場を介さない「直接買い付け」である。スペシャルテイ珈琲の魅力は高品質な豆と自分の好みのテイストを選択できる自由さ(注3)にある。そのため顧客の嗜好にあった高品質な豆を栽培する生産者から、先物市場より高い価格で豆を大量購入する。

 

(注3)スターバックスでは基本的にドリップとエスプレッソから付加価値を変えることで多彩なバリエーションをつくりだしていることが高い利益率となっている。appleのiphoneのようにONE PRODUCT主義(注4)なのだ。これに対して最近話題の"Blue Bottle Coffee"は、店頭で抽出する日本の喫茶店方式で客の好みの選択肢が広がったことが人気の理由と考えられる。

 

 豆の種類を限定して添付拡大を進めたビジネスモデルでは愛好家の細かい希望には対応できない。顧客がくつろげる北欧調のおしゃれな空間を提供したスターバックスは若者世代を取り込み、決して安くはない珈琲だが近代的な都市生活のアイコンとなった。

 

(注4)特別な期間限定メニューやリザーブ店という高級店舗では顧客の選択肢は広がるが、その代償は高級化である。

 


 「スペシャルテイ珈琲」にこだわる焙煎業者は世界中の農園を飛び回って品質のよい農園と契約するのが普通だ。スターバックスはしかし規模が桁違いに大きい。(最近子会社化したスターバックスジャパンは従業員2,000名で売り上げ1200億円企業である。)注意したいのは大規模買い付けで品質の高い豆が独占されると相場や農場経営にも大きな影響があることだ。同社は契約農園に対して栽培指導や融資等の支援を行ない、生産者援助で持続性を持たせるとしている。

 


 一般に珈琲生産量と豆の質は天候に大きく左右される他、珈琲の樹木を襲う病気(珈琲さび病等)によっても生産量が激減する。これらのリスクを軽減するには品種や土壌の改良など、地道な農園への支援が必要である。幸い持続可能な農業に向けてNGOによってきびしい基準が設定され、これに準拠した農園が増えている。農場支援を目的とする関税で基金をつくり、農園支援を行なうことが望ましい。焙煎メジャーやスターバックスのような大企業がこの地球規模の課題に取り組めば、珈琲を飲むことが持続性をもたらすことで企業イメージもアップするのではないだろうか。