北朝鮮に流出した米韓軍事作戦情報

09.04.2017

Photo: hackread.com

 

 韓国国防省の韓民求国防長官のパソコンを含む、韓国軍の内部イントラネット用端末約700台と外部インターネット網を利用しているパソコン約2,500台が2016年9月に、北朝鮮によりハッキングされ、機密情報の一部が流出したことが明らかとなった(4月4日、朝鮮日報)。流出した情報は朝鮮戦争が勃発時に、米韓軍が共同して軍事作戦を遂行する計画である。

 

 米韓連合軍司令部が作成した、北朝鮮の侵攻を想定した軍事作戦計画、OPLAN 5027の一部の情報が北朝鮮に流出したことが発覚したのは、ハッキングされてから3カ月後の12月。北朝鮮の脅威に備えて、1978年に初めて策定されたこの作戦計画は1994年以降、2年ごとに軍の配備、主要な軍事ターゲットと戦略などの実行計画の内容が状況に合わせて随時、変更されてきた。

 

 最新の軍事作戦計画OPLAN 5015は2015年に作成され、OPLAN 5029(北朝鮮の内部崩壊への対応)、OPLAN 5027(朝鮮戦争が勃発した際)と軍事衝突がない緊張状況にある場合を想定した作戦などを盛り込んでいる。特に北朝鮮の攻撃に対して、軍事施設、武器貯蔵施設、通信施設や政権幹部を標的とする先制攻撃を遂行する作戦計画が中心となっている。

 

 

ハッキングされた作戦計画

 ハッキングされた旧作戦計画(OPLAN 5027)は、最新のOPLAN 5015以前の旧作戦計画であるが、一部はOPLAN 5015と共通するため今後の米韓軍の作戦計画の見直しが検討されている。OPLAN 5027(下図)は北朝鮮の不意の武力行使に対応して、米韓両軍が兵力を展開し反撃作戦を行うもので、最新のOPLAN 5015は局地的な北朝鮮と韓国の衝突がエスカレートして全面戦争となり、核ミサイル攻撃を含む北朝鮮の大規模攻撃を想定している。

 

 2018年から採用が予定されているOPLAN 5015では、北朝鮮が核ミサイル攻撃の兆候が見られた時点で、軍事施設に対する先制攻撃を想定している。2020年代中頃を目安とされていた米軍から韓国軍への作戦司令権(OPCON)の移譲が前倒しされることになったため、これらの作戦計画の重要性は大きい。旧計画のOPLAN 5027では北朝鮮の不意の侵入を米韓両軍がソウル北部で迎え撃つための手順を取り決めたものであった。一方新しいOPLAN 5015は局地的な北朝鮮と韓国軍の衝突が全面戦争に拡大するシナリオに対応させ、より現実的なリスクに適応させたものとなる。

 

 

Credit: hani.co.kr

 

 

米韓軍事演習 

 北朝鮮の脅威に備えた米韓軍の定例の合同軍事演習の「フォールイーグル」が3月1日から2カ月間の日程で実施中である。

 

フォールイーグルは米軍約17,000名、韓国軍290,000名が参加、昨年と同じ史上最大規模の軍力の演習となる。 13日から米軍の増援や指揮系統などをシミュレーションする「キー・リゾルブ」が始まっている。今回は原子力空母、イージス艦、原子力潜水艦、ステレス戦闘機F-35Bが参加する。

 

 今回は初めてシールズチーム6、陸軍のレンジャー、デルタフォース、グリーンベレーが参加。米国の対北朝鮮政策の見直しに伴い、北朝鮮に特殊部隊を送り込んで金正恩委員長や政権幹部の殺害を視野に置くと同時に、核兵器の韓国への配備が含まれている。

 

 OPLAN 5015では北朝鮮の核ミサイル攻撃の兆候を掴んでから30分以内に主要な軍事施設を攻撃して、攻撃力を失わせる計画である。急ピッチで進む北朝鮮の核兵器開発に対応して、核兵器の被害を最小限に抑えるための先制攻撃を含めざるを得なかった。これまで北挑戦の核兵器開発を過小評価してきた米国は相次ぐ北朝鮮のミサイル試射で、作戦計画の変更とTHAADの緊急配備を余儀なくされた。

 

 OP5015は700箇所の軍事標的を根こそぎ攻撃して北朝鮮の攻撃力を奪う計画であるが、米軍の考える現実的な作戦は、金正恩に焦点を絞った斬首作戦を絞り込まれた軍事拠点を対象としたコンパクト版のOPT5015に組み込んだものである。それでも実行には相当な困難が立ちはだかる。特に国境に近いソウルの市民を犠牲にするわけには行かない。北朝鮮もその弱みを握っているからミサイルと核実験のカードを切り続ける。