炭素・水サイクルにおける森林の役割

09.07.2017

Photo: eenews.net

 

これまでの地球モデルでは複雑な炭素・水サイクルを記述できないため、誤差が大きく気候変動の正確な予想が困難である。地球上の複雑な炭素サイクルの中で山(森林)の役割が見直されているが、地形に依存した炭素吸収・貯蔵量の実測の環境データは限られている。

 

アリゾナ大学を中心とするサイバース(CyVerse)プロジェクト(注1)はコロラド州ボルダー地域の炭素、水サイクルを定量的に解析し、炭素蓄積量が地形に強く依存することを見出した(Swetnam et al., Ecosphere 8,4, e01797 (2017))。

 

(注1)アリゾナ州立大学を中心として生命科学と環境科学分野の研究者に計算機資源を提供する目的で、NSF予算で運営される大規模計算機インフラ。地球環境データ、計算機資源、解析コードが公開され全米の研究者が資源を共有する。

 

Credit:Ecosphere

 

研究グループは上図のように尾根から谷にかけて系統的に炭素蓄積量が増大することや気温、傾斜面の方向など地形と炭素蓄積密度の強い相関を見出した。森林の木々で空気中の湿気は捕集され凝縮されて水となる。降雨・降雪による水が加わって地下水となり谷に向かって流れていく。地下水は谷底に貯水され、一部は河川となって平野部を潤す。水サイクルと炭素サイクルは相関が強い。例えば降水量が増えれば植物成長も増えて炭素捕獲量が増大する。

 

また地形が水サイクルに与える影響も大きい。降雨・降雪が地形に強く依存する。研究グループはコロラド州ボルダー近郊の3カ所で水サイクルの定量化を行い炭素サイクルと関連付けた。高度の高い場所にある森林は水が豊富で炭素吸収でも有利とされてきたが、今回の研究で実際には尾根よりも谷の方が炭素吸収能力が大きいことが示された。

 

気候変動で気温が上がると湿度が下がり水分が少なくなると木々が死滅し炭素循環に異常が起きると予想される。サイバース・プロジェクトのデータと大規模計算機資源クラウド(Jetstream)(注2)はオープンアクセスで世界中の研究者に公開されている。

 

(注2)科学技術及び社会科学の研究ネットワーク化のための共通資源、Extreme Science and Engineering Discovery Environment, XSEDEの一環として整備された全米の生命科学と地球科学分野の研究者を対象とした計算クラウド。インデイアナ州立大学が中心になりNSF予算で整備された。

 

パリ議定書では地球温暖化は気候変動と同義語であるが、それは(意図的な)誤りで、地球モデルで気候パラメーターを予想するには炭素・水サイクル(下図)の広範囲の地域での系統的評価が不可欠で、それにはネットワーク化された研究者がデータ、計算機資源、解析コードを共有して取り組むのが効果的である。