サウジへの兵器輸出協定締結の意図

22.05.2017

Photo: bignewsnetwork

 

 債務超過に苦しむ米国にとって兵器輸出は切り札とも言えるカードである。9日間にわたる中東訪問で、関係が希薄になりつつあったサウジアラビアへの1,100億ドル(約12兆円)の兵器輸出に関する契約にこぎつけた。契約には上記の他にも10年間で3,500億ドル(約39.2兆円)の追加輸出が含まれている。

 

 ビジネスマンとしてのトランプ大統領の面目躍如といったところだ。直接的には貿易収支改善への寄与があるが、それ以外に国内の防衛産業の雇用対策の効果も大きい。

 

 米商務省が発表した2016年12月の貿易赤字は前年比3.2%減の442.6億ドル、通年では5,022.5億ドルであるので、今回の輸出協定が収支改善に大きく貢献する。トランプ政権は赤字の大きい対中貿易の収支改善を中国に強く迫るが、高価な近代兵器の大量輸出は収支改善の効率が高く、軍事産業の雇用対策にも有効である。

 

Credit: reuter

 

 ニューヨークタイムズによると今回のサウジ側幹部との交渉に際しては、在ワシントンサウジ関係者とつながりの深いクシュナー氏が貢献によるところが大きい。具体的な兵器輸出の中核は弾道ミサイル迎撃用の高性能レーダーシステム(ロッキード・マーチン社)で、イランを仮想敵国とした過去7年間に及ぶサウジアラビアと米国の湾岸地域の共同防衛力の強化につながる。

 

 表面上は米国はサウジアラビアを対テロ対策の中東の拠点と位置づけ米国の中東派兵の兵力削減に貢献させようとする狙いがある。しかしその裏には米国企業をサウジアラビアを通じて中東に展開させ、貿易収支改善と国内雇用対策で財政の立て直しを目指す思惑がある。今回の協定の主な内容は以下5分野の兵器輸出。

 

国境警備・対テロ対策(戦車、陸上輸送車、ヘリコプターなど陸上兵器増強)

海上・沿岸警備(多目的海上戦闘ボート、ヘリコプター)

空軍力近代化(航空戦力の維持、偵察・索敵能力強化、情報収集力増強)

対空・対ミサイル防衛(パトリオットとTHAAD)

サイバーセキュリテイと通信能力増強(指揮系統の通信能力増強)

 

 これらの軍事力増強はサウジアラビアを対イラン(ロシア)戦略で中東の拠点とする従来の政策の継続を狙うものだが、サウジ国内には王族継承を巡って王族内が混乱している。

 

 また米国依存から脱却し独自の路線を歩もうとする機運も高まりつつある。また911への関与疑惑でサウジアラビアが集団提訴されるなど米国内でも関係を見直す意見も広がりをみせている。

 

 兵器供与と引き換えに国内企業を展開させて貿易収支を改善させる図式はすでに陳腐化している。サウジ国内の問題を考慮すれば、米国が今後10年にわたって旧来の政策で乗り切れるかどうかは不透明である。

 

Updated 24.05.2017 10:04

時事通信によれば国防総省は23日、10月から始まる2018会計年度の国防予算は前年度比10%増しの5745億ドル(約64.2兆円)となることを発表した。

 

 Updated: 22.05.2017 16:28

ワシントンポストによればトランプ政権は低所得者向け公的医療保険の適用を厳しくして10年間で8,000億ドル(約90兆円)の削減案を予定している。こうした財政削減と貿易収支改善で財政を立て直すとしているが、一方で軍事予算の増大で相殺されれば債務超過が続くことは想像に難くない。