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1年前の11月17日に、フランス全土の2,000カ所で約29万人のフランス市民が燃料増税の廃止を求めて大規模な抗議デモを行った。この黄色いベスト運動はその後、反政府運動に発展、16~17日の週末には抗議運動が始まってから53週目を迎えた。
黄色いベスト運動は一年経ってもフランス市民からの高い支持を保っている。フランスのル・フィガロ紙によると、コンサルティング会社Elabeの最新世論調査では黄色いベストへの支持率は55%、不支持率は29%で、過半数の国民が支持していることは変わらない。最も支持が高いのはマリーヌ・ル・ペン氏率いる極右政党の国民連合と極左政党La
France Insoumise(服従しないフランス)の支持者である。
黄色いベスト運動が提唱した社会問題
黄色いベスト運動は1968年の暴動と反政府ストに続く、過去50年間で最悪の反政府抗議運動であった。去年、抗議運動の暴動化は沈静化されたが、抗議はパリの一部と地方では尚も続いている。
黄色いベスト運動は、近代の主要先進国における様々な社会問題を表面化させたのである。フランスの地方・農村から始まった黄色いベスト運動は、特定の政党とは無関係の特定のリーダーがいない、一般の労働者階級・中流階級の市民から始まった運動である。
グローバル化が進むにつれ、都市部の富裕層と地方・農村の中流階級、労働者階級、貧困層との格差は悪化していった。大都市のパリはグローバル化の恩恵を最も受け、他の地方経済と比べGDPは倍以上である。フランスの人口の60%以上が住む地方ではグローバル化による恩恵は少なく、低い経済成長と高い失業率で経済は衰退している。
この経済状況のなか、車を運転する人が13%と低い大都市に対して、地方では車が移動や仕事に必要不可欠であるにも関わらず、政府がガソリンとディーゼル燃料価格をそれぞれ15%と25%上げた後に、温暖化対策の一環として燃料増税と炭素税を実施したのである。増税の影響で生活が苦しくなる地方の市民が政府にNOを突きつけたのが黄色いベスト運動である。
その他にも、政府が進める徴兵制の復活、年金受給の年齢引き上げ、「労働改革」による低賃金や雇用の不安定化、公共設備の民営化、移民増加による犯罪増加と治安悪化などの政策で、多くのフランス市民の政府への不満が高まり、燃料増税から反政府運動へと大きく発展していったのである。
政治権力と経済の中心であるパリと地方との格差、富裕層と中流・労働者階級との格差といった多くの先進国が抱える社会問題を、黄色いベスト運動は提唱したのである。
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