欧州軍構想を巡って深まる米仏の溝

12.11.2018

Photo: dw

 

パリで開催された世界大戦休戦記念祝賀会の前日、フランスのマクロン大統領とトランプ米大統領の主張の違いが表面化し、米仏の協調関係に影を落とす結果となった。マクロン大統領は、核兵器不拡散条約(INF)」から撤退するというトランプ大統領の方針を引用して、EUは中国、ロシア、さらには米国から欧州を守るために欧州軍の整備の必要性を説いたことが火に油を注いだ。

 

マクロン大統領の発言は挑発的といえるが、それはトランプ大統領との対立という観点ではない。現実には他の多くの欧州諸国の指導者たちは、欧州軍構想は安全保障と防衛政策について行き過ぎた統合政策とみなし欧州軍設立を支持していないからである。

 

マクロン大統領は、欧州軍を持つことを決断しなければ、欧州を守ることはできないと主張している。それは国境にあるロシアに面したEU加盟国が陸上から侵入される危険にさらされた時、米国に依存するNATOに頼ることなく、自らを防衛できる独自の統合軍を欧州が持たなければならないと考えている。

 

また、INF条約から撤退したトランプ大統領を批判するとともに、有事の際の米国の協力関係にも疑問符をつけた。それはロシアや中国による直接的な安全保障上の脅威に(米国主導の)NATOでは対処できないためと説明している。しかし明らかに米国と欧州の敵対関係は不合理であることを前提にしながら協調関係に水を差す軽率な発言は、不適切といえるだろう。

 

EU加盟国が米国の同盟国として軍と防衛にもっと多くの支出(年間GDPの2%のNATO支出目標)するよう強く求めているトランプ大統領はマククロン大統領の発言が「非常に侮辱的」であるとツイートした。 マクロン大統領は、ヨーロッパ、米国、中国、ロシアから欧州を守るために、独自の軍隊である欧州軍創設を提案したが、NATOの枠組みを認めるならば加盟国が公平な分担をすることは理にかなっている。

 

対立構図が明確になるにしたがって緊張が高まったが、マクロン大統領がエリゼ宮殿にトランプを招待して話し合いをしたことから、表面的には緊張が緩和されたようにみえる。実際、マクロン大統領はNATO同盟国による軍事費の増加に対するトランプの要求を支持していることを強調した。

トランプ大統領も「公平性の観点から、我々はそれが公正であることを望む米国は欧州を支援したいが、公正でなければならない」とした。しかしマクロン大統領の本音はNATO軍維持を上回る分担金を(欧州防衛を担う大義名分のもとに)欧州軍の維持費用として加盟国に要求することである。

 

両国の首脳は、NATO分担金支出だけでなく、貿易問題、イランの核交渉、ノースストリーム2のガスパイプラインおよびその他の問題について、主張が食い違いこれまでにない不協和音が高まり欧州と米国との関係は緊張が高まっている。特にこれまでEUで主導的な役割を演じてきたドイツのメルケル政権が最近の選挙で惨敗し、メルケル首相の勢力が衰退するなかで、経験不足のマクロン大統領の勇み足が目立つようになった。移民問題や金融問題でも欧州自身の求心力が低下するなかで、政治経済だけでなく安全保障の意識でもEUの弱体化はまぬがれない。

 

 

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